地方政治ルポ

川勝知事と自民の確執越年 「コシヒカリ」辞職勧告 埋まらぬ溝、みえぬ改善糸口

川勝平太知事(手前左)に対する辞職勧告決議案の提案理由を述べる自民会改革会議の野崎正蔵代表(手前右)=静岡県議会議場(田中万紀撮影)
川勝平太知事(手前左)に対する辞職勧告決議案の提案理由を述べる自民会改革会議の野崎正蔵代表(手前右)=静岡県議会議場(田中万紀撮影)

静岡県の川勝平太知事が御殿場市を揶揄(やゆ)したとして批判を受けた「コシヒカリ発言」に端を発した、川勝氏と県議会最大会派「自民改革会議」との確執は解消される気配がみえない。発言を謝罪・撤回し、過去にも舌禍を起こしたことを踏まえ「生まれ変わる」と猛省してみせる川勝氏に対し、県政史上初の知事辞職勧告決議可決を主導した自民側に矛を収める様子はない。県政停滞の長期化を懸念する声もある中、両者の溝は埋まらぬまま越年する。

12月17日。来年度の県予算案編成を控えて年末恒例の県議会各会派からの予算要望で、自民改革会議の野崎正蔵代表らが向き合ったのは出野勉副知事だった。例年、要望書を受け取っていた川勝氏の姿はなく、しかも要望書の宛名は「静岡県御中」。昨年までは「川勝平太知事」宛てだった。「顔もみたくない」と言わんばかりの対応は、確執の根深さを改めて印象づけた。

直接の発端は、10月の参院静岡選挙区補欠選挙にさかのぼる。川勝氏は野党系候補の応援演説で、自民党公認候補の地元・御殿場市を「あちらはコシヒカリしかない」などと揶揄。「地域差別」との声が噴出し、県には苦情が殺到した。

慌てた川勝氏は当初、「誤解を招いた」などと火消しに走ったが逆に「言い訳」と受け止められ、火に油を注ぐことに。結局、謝罪と発言撤回に追い込まれたが、自民側は「堪忍袋の緒が切れた」と怒り心頭で、11月12日、知事不信任決議案の提出方針を報道陣に表明した。自民側は2年前の年末、川勝氏から「やくざ集団、ごろつきがいる」と揶揄されていた経緯がある。

今年6月の県知事選のしこりもあった。川勝氏は、リニア中央新幹線静岡工区工事に伴う環境問題を最重要課題と訴える「劇場型選挙」を展開。政権与党の自民県連に〝工事推進派〟のレッテルをはって「権力や組織力、資金力で武装した猛獣」などと激しく攻撃し、自民推薦候補を破って4選していた。

こうした積年の対立を抱えた中、自民は法的拘束力がある知事不信任案の可決に向け、国政野党系会派への多数派工作に奔走。先の衆院選後に自民党入りした細野豪志衆院議員にも協力を求めた。だが必要な「出席議員の4分の3以上」の賛成を得る見込みが立たず、臨時県議会開会前日の11月23日になって、法的拘束力がないものの過半数の賛成で可決できる、辞職勧告決議案の提出方針に切り替えた。

迎えた同24日の臨時県議会。不信任案提出断念に対して「腰砕け」との批判の一方、否決されれば逆に川勝氏に〝信任〟の口実を与える懸念から「現時点ではベストの選択」と擁護する声もある中、辞職勧告決議は、公明会派なども加えた賛成多数で可決された。

ただ川勝氏は、改めて「コシヒカリ発言」について謝罪し反省を口にしつつも知事続投を表明。これに対して自民側は、同29日開会の12月定例県議会でも辞職を求め続けた。御殿場市などが選挙区の勝俣昇県議は一般質問で「謝罪の言葉には誠意が感じられない」と指摘し、最後はこう断じた。

「われわれが望んでいるのは、あなたが生まれ変わった人間になることではなく、良識ある新たな知事の誕生だ」

辞職勧告決議可決を受け、川勝氏は、自身の冬のボーナス約315万円と12月分の給料の返上を表明していた。「自らにペナルティーを科す」という理由だ。だが返上に必要な条例改正案は12月21日の県議会閉会日まで提出されず、結局、支給された。

県幹部は提出見送りの理由について「自民党などの反対で否決される公算が大きかったから」と明かす。「自民サイドは、知事に辞職を求め続けている以上、『賛成するのはおかしい』との意見が大勢だった。そんな状況で提出しても、否決されてまた知事と自民が対立していると受け取られてしまう」と解説する。

返上条例案が提出できない一因と指摘された自民側の会派幹部は「県当局とは円満。来年度予算案の審議も応じる」として、「知事の資質がない人に辞職してもらいたいだけだ。ペナルティーがどうとかは些末な話」と切り捨てる。

来年2月の定例県議会で条例案を提出し、12月分の給料と冬のボーナスをさかのぼって返上するのは困難なのか。県人事課は「法令解釈上は可能かもしれないが、考えていない」という。現時点で川勝氏から2月の提出指示を受けていないからだ。

「厳しい指弾を受けた」。こう振り返り、今年を象徴する漢字に「厳」を選んだ川勝氏。一方、振り上げたこぶしをどう収めるのかが注目される自民改革会議。県幹部は一連の対立を「令和のコメ騒動」と冗談交じりに苦笑するが、積年の確執は根深く、「ノーサイド」への糸口さえみえない。