半沢直樹流に言うならば1番・近本で来季こそ倍返しだ! 2021年最後の漫遊記です。今季は77勝56敗10分けの2位。優勝→日本一に輝いたヤクルトとはわずか勝率5厘差でした。気分をリセットして来季の〝倍返しV〟をイメージしたとき、見えてくるのはチームの中心選手です。誰がリーダーで最も頼れる選手なのか…。それは近本光司外野手(27)でしょう。今季140試合に出場、打率3割1分3厘、リーグ最多の178安打を放ち、リーグトップの91得点、リーグ2位の24盗塁を記録しましたね。プロ4年目で脂の乗り切る来季こそ、MVP(最優秀選手賞)に近本が輝く戦いができるならば、来年こそ倍返しV!です。
球界の定石に来季の「解答」
時のたつのは早いものですね。今週の漫遊記が2021年最後の拙稿となります。今季はあまり振り返りたくない気持ちもありますが、3月26日の開幕戦から4月、5月、6月の交流戦終了(6月13日=楽天戦・楽天生命)までは快進撃でした。ルーキー佐藤輝明内野手が打ちまくり、マルテやサンズが活躍し、抑えのスアレスがスラスイスイ~と抑えて、部屋に飾っている星取表には〇印ばかり! 「こりゃあ、絶対に優勝や!」とニタニタしていたんですよ。
ところが、交流戦明けの巨人3連戦(甲子園球場)で負け越したあたりから、どうも雲行きがおかしくなってきて、6月25日からのDeNA3連戦(甲子園球場)でなんと3連敗。そこから思うように勝てなくなって、7月は5勝8敗。東京五輪で中断後の8月、9月も一進一退。10月はなんとか粘りましたが、ヤクルトの猛烈な勢いが勝り、逆転を許してしまいました。
今季最終戦の10月26日の中日戦(甲子園球場)を0対4で敗れ、V逸が決定した試合終了後、矢野監督は「逆転優勝を信じ最後まで戦っていただきましてどうもありがとうございました。10月に入り、選手たちは本当にすごい粘りを見せてくれました。しかし、僕たちが目指しているところはここではありません。今日の最後の試合、こういう試合を勝ち切れる、もっともっといいチームに、もっともっと強いチームになっていけるよう、新たなスタートとして、この悔しさを持って戦っていきます」とファンに挨拶しています。
本当に指揮官が言っている通りであってほしいですね。今季はもう終わりました。気持ちをリセットして来季、2022年のペナントレースに向けて「もっともっといいチームに」「もっともっと強いチームに」なってほしいと願うのはチーム関係者やファンの共有するところでしょう。
では、来季に17年ぶりのリーグ優勝を果たすためにはどんなチームであればいいのか。どうすれば、「もっともっと強いチーム」になれるのか-。絶対的守護神スアレスが大リーグ・パドレスに移籍し、サンズもいなくなりました。佐藤輝も後半戦の打撃不振を来季は克服できるのか。ネガティブな材料はかなり多くあります。それでもシーズン開幕から上位に食い込み、最終的に優勝を果たすためにはどうすればいいのか。
かなり難題のような気もしますが、こういうときは球界の定石に倣って、もう一度、現在のタイガースを見つめ直せばそこに「解答」があるような気がします。
球界の定石とは何か…ですが、そのシーズンの戦力構想を首脳陣が描くとき、絶対的に参考にするのは前年の成績です。監督がマスコミ向けに「戦力をゼロから見直して…」と話すときもありますが、そんなチームは万年Bクラスに甘んじている場合が多く、優勝を目指すチームの監督やコーチが戦力設計をするとき、絶対に参考にするのは前年の成績ですね。例えば開幕投手を軸に先発ローテーションを考えるとき、来季で見るならば今季の成績を重視するでしょう。
青柳が25試合に登板して13勝6敗。秋山が24試合登板で10勝7敗。伊藤将が23試合登板で10勝7敗。ガンケルが20試合登板で9勝3敗、西勇輝が24試合登板で6勝9敗。基本的にこの5投手が先発ローテーションのメンバーになるはずですね。
では、打者陣ではどうか…と見るならば、これは圧倒的な存在感を示しているのは近本です。プロ3年目の今季は140試合に出場して打率3割1分3厘。プロ入りして初めて3割をマークしました。178安打はリーグ最多安打。91得点もリーグトップ。24盗塁は同僚の中野の30盗塁に及びませんでしたが、リーグ2位でした。主に1番を打ちましたが、10本塁打で50打点。得点圏打率も3割1厘と勝負強さを発揮しています。
つまり、長いシーズンの中では山あり谷あり…でシーズン当初の佐藤輝や梅野、マルテ、サンズ。後半では中野などの活躍が目につきましたが、シーズンを通して活躍し、チームに最も貢献してきたのは近本でしたね。
近本を生かしたクリーンナップを
オフに近本と話したとき、彼は自身の将来像として「3番打者」というポジションを挙げていました。確かにヒットメーカーであり盗塁もできる選手でありながら、勝負強く、長打も打てる。3番打者の適正も十分にあるように思います。
ただ、ある球界のOBはこんな話をしていました。
「将来的な理想はそれでもいいのかもしれないが、現時点での近本の最適な打順は1番だね。どうしてか…と言えば、相手バッテリーは盗塁のある近本を出塁させたくないからこそ、カウントが苦しくなったら甘めのボールを投げて、四球だけは避けようとしているんだ。甘い球が来るから打率も良くなるし、長打も打てる。これが3番だと甘いボールの来る比率が落ちるんだ。歩かせても仕方ないと思われてしまう。現状なら近本は1番でこそ生きるし、チームにとっても1番近本が最適なんだ」
そうであるならば、矢野監督の来季構想も「1番近本」が基本線なのでしょうか。ならば、近本の安打数や盗塁数がもっとチームの白星に直結する打線を築かなければなりません。円熟度を増す近本の存在が、もっともっとチームの成績に直結する打線でなければタイガースは優勝できないと思うのです。大事になってくるのは近本の後を打ち、つないでいく2番打者でしょう。さらに3~5番のクリーンナップがポイントゲッターになって、近本の得点を今季の91から100超えにしていかなければならないでしょう。
来季のチームの看板選手は…と聞かれれば、「近本光司」と即答します。それは今季の成績があるからです。なのでチームの看板選手がシーズン終了後、MVPに輝けるようなチームにしなければならないのですね。逆説的ですが、コレが阪神の2022年V構想の出発点でしょう。
近本を生かせる2番、3番、4番、5番、6番打者は誰にする? 現時点では見えてきません。春季キャンプの後半からオープン戦でそこがクッキリと浮かんでくればしめたものです。
今年は屈辱的なV逸でした。来年は「倍返しだ!」と半沢直樹なら言っているでしょう。「倍返しV」を目指す戦略の原点はどうやって近本を生かし切れるか…ではないでしょうか。
では、愛読者の皆様よい年をお迎えください。来年こそは、来年こそは…と言い続けて17年目を迎えますが、懲りもせずまた言いましょう。「寅年の来年こそ阪神優勝や!」
(次回は、1月11日の掲載予定です)
◇
【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。