ビブリオエッセー

声に出して読みたい歌がある 「ときめき百人一首」小池昌代(河出書房新社)

古文が苦手、嫌い。そもそも自分に必要あるの? そう思っている学生さんや大人たちに、ぜひおすすめしたいのがこの本。「14歳の世渡り術」という中学以上を対象にしたシリーズの一冊で、とても読みやすい。

詩人で作家の著者は本書で、百人一首を「音楽みたいに日本語を味わっていた」と書き、音韻や「意味を取る前」の「音の面白さ」に着目している。子供のころからピアノを習い、学生時代はオーケストラなどでビオラを担当していたそうだ。そんな環境もあって、言葉と音に対する感性がとても鋭い。

まずは声に出して読んでみる。著者の現代語の訳詩はカジュアルだ。「なんてことかしら/春は ゆき/いつのまにか/夏が 来たらしいワ」。話し言葉のような解説文は一緒に和歌を歌ってくれているような感じがする。

「耳で読む一首」だと書く猿丸大夫の歌には「落ち葉を踏み分ける乾燥した鹿の足音」が、蟬丸の歌には逢坂の関の「人々の声や行き交う足音」が聞こえるという。藤原敏行朝臣の歌では上の句の「岸に寄る波よるさへや」のリズムに着目し、「寄せては引き返す波のような揺れ」を感じている。

言葉は生き物だ。日々新しい言葉が生まれ、古くなった言葉は使われなくなり、やがては消えていく。それでも百人一首が現代まで親しまれてきたのは、声に出したとき素直に心地よかったからじゃないだろうか。

その心地よさが時代を一気に飛び越えてくる。それってすごいことだと思う。著者は「わずかな感興を豊かに深く響かせる装置が、三十一文字のなかには仕組まれている」という。

最初は目にとまった一首でいい。ぜひ声に出して読んでみてほしい。

兵庫県尼崎市 谷岡美樹(37)

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