許さない 未解決事件のいま

(4)逃走続ける「迷惑な男」 三鷹男性強盗殺人

永野和男さんが殺害された東京都三鷹市のアパート(警視庁提供)
永野和男さんが殺害された東京都三鷹市のアパート(警視庁提供)

あばた顔でふてぶてしい表情を浮かべるオールバックの男。多くの人が、街中に張り出されたポスターでこの顔を見たことがあるはずだ。殺人容疑で指名手配されている住所不定、職業不詳、上地恵栄(うえち・けいえい)容疑者(65)。東京都三鷹市のアパートで平成17年の晩秋、居酒屋チェーンの副店長だった永野和男さん=当時(53)=を殺害した。働きもせず知人の家を転々とし「周囲に迷惑をかけ続けてきた男」(捜査関係者)は、今も逃げ続けている。

働くことが大嫌い

閑静な住宅街の一角で悲劇は起きた。JR三鷹駅(三鷹市)近くの2階建て木造アパート「美久和荘」。17年11月25日午後11時ごろ、住人の永野さんが、顔や胸など十数カ所を刺されて死亡しているのが見つかった。台所には凶器とみられる血のついた包丁も発見。永野さんの財布からは、現金が盗まれていた。

警視庁は強盗殺人事件と断定し、三鷹署に捜査本部を設置。周辺の聞き込みからすぐに捜査線上に浮上したのが、上地容疑者だった。数カ月前から永野さんの部屋に転がり込んでいた。部屋には上地容疑者の血液が付着した下着が見つかったほか、身分証などの所持品も残されていたことなどから、発生から1カ月後、指名手配に踏み切った。

上地容疑者は一体どんな男なのか。「とにかく働くことが大嫌いで、自分のカネでは絶対にお酒を飲まない人間」。上地容疑者の印象について、知人らは声をそろえる。定職にはつかず知人や交際相手の家に上がり込んではカネをせびり、迷惑をかけ続ける日々。永野さんもその一人で「(上地容疑者が)部屋をなかなか出ていかず、カネをせびられ、電気代や食事代がかかる」と周囲に不満をもらしていた。

上地恵栄容疑者を追う警視庁捜査1課の野辺隆之管理官=17日、警視庁(王美慧撮影)
上地恵栄容疑者を追う警視庁捜査1課の野辺隆之管理官=17日、警視庁(王美慧撮影)

口が達者で女性に優しい側面もあり、かたわらには常に交際相手がいたという。趣味はマージャンで、実力はプロ並み。毎日飲み歩きながら、雀荘にも頻繁に出入りしていた。容姿では前歯がないのが大きな特徴。保険証が持てないことから自費での治療は困難とみられ、歯の脱落がさらに進行している可能性もある。

動機はカネか

一方、「将来は自分の店を持ちたい」と夢を抱いていた永野さん。居酒屋副店長としての仕事ぶりはまじめで、同僚や部下からも慕われていた。

犯行直前は永野さんの給料日。捜査関係者は「犯行当日もカネを無心したが永野さんに断られ、逆上して殺害した可能性が高い。カネが犯行の動機だろう」と分析する。

永野さんの厚意を踏みにじり、恩をあだで返した上地容疑者。事件は新聞やテレビ番組の特集などでたびたび取り上げられ、今も目撃情報が途絶えることはない。捜査関係者によると、これまでに寄せられた情報は約1500件。月20件近くの情報が入ることもある。目撃場所はさまざまで「沖縄で似ている人物を見た」という連絡があれば、すぐに捜査員を向かわせた。今年12月中旬にも関西で目撃情報があり、現地に派遣した。

かくまわれているか

現場アパートは、発生から数年後に建て替えられたが、地元住民には事件の記憶が深く脳裏に刻まれている。上地容疑者への恐怖心から、次第に事件について触れないことが住民らの「暗黙の了解」となった。犯行前に上地容疑者を見かけたことがあるという70代男性は「手配写真を見かける度に思い出し、戻ってくるのではないかと怖くなる。早く捕まってほしい」と不安げに話す。

上地容疑者を追うのは、未解決の殺人事件などを専従で捜査する捜査1課の「特命捜査対策室」。21年の発足以来、27件の難事件を解決に導いてきたプロ集団だ。どんなささいな目撃情報でも軽視せず、全て調べ尽くしてきた。これまでに捜査員が当たった「上地容疑者」は1千人を超える。

指揮する捜査1課の野辺隆之管理官は「上地容疑者は誰かにかくまってもらっている可能性が高く、今も生きている。特命は執念と機動力が武器。地球上のどこまでも追いかけていく。出てこないなら必ず目の前に立ちふさがり、声をかける」と力を込めた。(松崎翼、王美慧)

三鷹市居酒屋副店長強盗殺人事件 東京都三鷹市上連雀の木造2階建てアパート「美久和荘」一室で平成17年11月24日、住人の永野和男さんが刃物で刺され殺害された。同居していた上地恵栄容疑者は永野さんを殺害後に逃走。上地容疑者は沖縄県出身で身長168センチ。前歯がなく、高い笑い声が特徴。事件には最大300万円の捜査特別報奨金がかけられ、逮捕につながる有力な情報提供者に支払われる。情報提供は三鷹署捜査本部(042・249・0110)。

 

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