「シン・シブサワ」を伝える 史料館館長に聞く

大河ドラマ「青天を衝け」について「100点以上をつけたい」と評価する「渋沢史料館」の井上潤館長=26日、東京都北区
大河ドラマ「青天を衝け」について「100点以上をつけたい」と評価する「渋沢史料館」の井上潤館長=26日、東京都北区

「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一の物語「青天を衝(つ)け」(NHK、全41話)が26日、フィナーレを迎えた。幕末から昭和までエネルギッシュに挑戦を続けた渋沢は令和の日本人に多くのヒントを与えてくれた。番組の時代考証にも関わった「渋沢史料館」(東京都北区)の井上潤館長は大河ドラマ第60作をどう見たか。

--「青天を衝け」の感想と特に印象に残ったシーンについて

「ドラマ、フィクションであるということを強みとし、多少デフォルメをきかせる演出が施された結果、これまで伝えきれなかった部分にまで踏み込んだことで渋沢栄一の人物像がより伝わった。一番印象に残ったのは、最後の将軍、徳川慶喜と栄一が、お互い尊敬する家康の遺訓を2人して諳(そら)んじるシーンだ。遺訓をかみしめながら徳川の世の幕引き、新時代の構築という2人の思いが重なった」

--「渋沢史料館」館長として番組制作にどんなアドバイスをしたか

「渋沢史料館の館長としてというより、時代考証を担う身として脚本のト書き(場面設定)、ナレーション、せりふなどを中心に確認してきた。あくまでもドラマ、フィクションであると捉え、脚本家の意図をくみとったうえで、極力、史実にのっとり、誤ったイメージが伝わらないように配慮した」

--渋沢の私生活の部分が十分、描き切れていないとの声がある

「何をもって『十分』とするのか分からないが、個人的には家族個々人の思いに触れ、これまでタブー視されてきた部分にまで踏み込んでいる。限られた枠の中で十分に描かれていたと思う」

--主人公を演じた吉沢亮と渋沢のギャップについてはどうか。実際に渋沢は若々しく、りりしい感じだったのか

「写真などに写る渋沢栄一の像と吉沢さんの姿を比較すると、ギャップを感じてしまうのは否めない。ただ、渋沢は常にりんとして強いリーダーシップを発揮し、新しい時代を耕し続けた。脚本家の意図するところも『生涯、青春』を貫いた人間像を示すところにあったようで、そのイメージはうまく描かれていた」

--激動の時代を生きた渋沢から令和の日本人は何を学ぶことができるか

「学ぶべき中心的なテーマは、渋沢栄一が唱えた『論語算盤説』『道徳経済合一説』に集約される。公益を第一とし、正当な利益追求は、言葉こそ違うが『持続可能な社会』を目指す考えにつながる。時宜の見定め、正しい情報の活用、そして忍耐力は信用を勝ち得る基となる」

--大河ドラマを通じて生まれ故郷の埼玉・深谷を中心に経済効果がもたらされた。令和6年には新一万円札の顔になる

「最高額の新札肖像に決まった意義を正しく理解してもらうためにも、まだまだ渋沢栄一の真の姿、ゴジラならぬ『シン・シブサワエイイチ』を伝え続けていく必要がある。渋沢の考え方や言葉は現代や将来を生きる者に多くの示唆を与えるものと思われる。さらに検証を重ね、その実効性を新札の肖像が世に広まると同時に浸透させることが望まれる」(日出間和貴)