勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(378)

「楽天」名乗り 知名度高めたいIT企業の狙い

プロ野球への新規参入を表明した楽天の三木谷社長=2004年9月
プロ野球への新規参入を表明した楽天の三木谷社長=2004年9月


■勇者の物語(377)

労使交渉の約束通り経営者側は、新規参入のための加盟料(60億円)や譲渡の場合の参加料(30億円)を撤廃。「預かり保証金(約30億円)制度」の導入を決めた。これによって新規参入への〝壁〟は随分と低くなった。だが、けっして門戸を大きく開いたわけではなかった。

9月13日のプロ野球実行委員会では、新規参入の条件として①選手の保有②専用球場の契約③2軍練習場の保有―など、厳しい審査基準を設け、さらに「9月29日の臨時オーナー会議までに審査を通過すること」という条件までつけた。それは、まるで来季からの参入を拒絶するかのようだった。

なぜ、経営者側は来季の「セ6パ5」に固執したのだろう。それは、巨人の渡辺前オーナーの意向である「1リーグ制」や「パ移籍」構想がまだ消えていなかったから―といわれた。球界ではこんな噂が聞かれた。

「来季、セ6パ5の11球団でやれば必ずひずみが生まれる。経営がさらに苦しくなる球団が出て、球界再編の火がまた起こる。巨人はそれを狙っている」

9月15日、インターネット商店街最大手でサッカーのヴィッセル神戸を運営する「楽天」(三木谷浩史社長)がプロ野球参入に名乗りをあげた。神戸市に本拠地を置き、ヤフーBBスタジアムを専用球場として使用。選手は合併球団のプロテクトから漏れた選手を雇用。パ・リーグに参入するという。

「三木谷さんは『プロ野球には興味がない』って言ってたのに、気が変わったんですかね。プロ野球の〝うまみ〟が分かったんでしょう。Jリーグではインパクトがないですから」と先に手を挙げていた「ライブドア」の堀江社長は分析した。

その当時、IT企業はまだ実態が見えにくく、プロ野球参入によって知名度を高め、顧客の裾野を広げる狙いもあった。連日、スポーツ紙で取り上げられる〝うまみ〟は、Jリーグよりはるかに大きかった。

「楽天」の名乗りはパ・リーグの各球団の心を大きく揺さぶった。交流試合で巨人戦(6試合)がやれるとはいえ、主催は3試合。それっぽっちでは5球団になる〝損失〟は補塡(ほてん)できない。なら、新規参入を認めて元の6球団に戻そう。新しい〝波〟が起こったのである。(敬称略)

■勇者の物語(379)