離婚や相続 ウェブで調停 4家裁でスタート

離婚や相続といった家庭内問題の解決を図る家事調停をオンラインで行う「ウェブ会議システム」が、東京、大阪、名古屋、福岡の全国4家庭裁判所で今月から順次、始まった。当事者の負担軽減や安全確保といったメリットがある一方、なりすましや録音による情報漏洩(ろうえい)の危険といった課題も残る。遅れが指摘される司法分野のIT促進に向けた試金石となりそうだ。

画面上で配慮も

「離婚を決意したきっかけは、相手方の暴力です」

2日に行われた模擬調停のウェブ会議。家庭内暴力(DV)を理由に離婚したい妻、納得できない夫の離婚協議-との設定で、問題解決に当たる調停委員と夫役がいる東京家裁の調停室、申立人の妻役とその代理人がいる弁護士事務所をつなぎ、パソコン越しに話し合いが行われた。

DV事案だけに、妻が話をする場面になると夫役は退室。妻が話し終わり、画面上に姿が映らなくなると夫が再入室するなど、画面上でも「対面」の機会をなくす配慮がなされていた。

令和2年度の司法統計によると、同年度に全国の家裁で行われた家事調停は13万937件。ウェブ会議システムは東京家裁では来年1月に導入予定だが、大阪、名古屋、福岡の3家裁では、今月中旬以降に機材の準備が整ったところから実施されている。

東京家裁家事部の細矢郁所長代行は「ひとり親や遠方に住んでいる申立人が、裁判所に出頭する負担が軽減されるなどのメリットがある。IT化を見据えた合理的な調停の在り方を模索したい」と話す。

平成31年3月には、東京家裁で離婚調停中だった米国籍の夫が、日本人の妻を刃物で殺害する事件も発生。申立人の安全確保を図れるという側面もある。

ただ、課題もある。家事調停は原則的に非公開で行われるが、ウェブ会議では録音や録画をされるリスクは対面より高まる。本人ではない第三者が出席する「なりすまし」が行われる可能性もある。

最高裁は、身分証の提示や本人にしか知りえない情報を質問するなどの対策を想定。今回の模擬調停でも、調停委員が部屋全体をカメラで映すよう代理人に指示して周囲を確認。妻役に「録音、録画をしていませんか」と問いかけ、妻役は画面に免許証を提示していたが、確認方法には限度があるのが現状だ。

継続して検討を

裁判所のIT化をめぐっては昨年、民事裁判の口頭弁論や争点整理手続きで、ウェブ会議が利用できるようになった。今年2月には法制審議会が、訴状や準備書面などをインターネットで提出可能にする民事訴訟手続きの全面IT化に向けた中間試案をまとめている。

東京家裁で調停委員を務める早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、家事調停のオンライン化ついて「遠方にいても調停に参加でき、(申立人の)安全に問題があるケースでも対応できる」と評価する。

一方で「家裁を含めた裁判のオンライン化は海外でも試行、実施されているが、家庭事件ではIT弱者や貧困層にどう対応するかということもある」と指摘。「特に離婚や親権争いでは、対面で直接話を聞く必要があるケースもあり、直接の意思の確認が必要な場合、オンラインで代替できるかは大きな課題。IT化になじまない当事者への対応も合わせて検討を進める必要がある」と話した。(塔野岡剛)

家事調停 離婚、夫婦間の生活費の分担、養育費の請求、遺産分割といった家庭内の争いを対象に家庭裁判所で行われる合意による解決を目指す手続き。裁判官1人と民間から選ばれた調停委員(通常2人)で構成される調停委員会が、申立人と相手方から意見を聴き、助言や解決案の提示を行う。合意事項は書面化され、裁判の確定判決などと同一の効力がある。