二酸化炭素を吸収する“海藻の森”をラッコが救う

必要なことをひと通り身につけたラッコは、カリフォルニア沖の生息地に放される。この際にラッコには追跡装置を付け、最初の2週間は海上でうまくやれているのか注意深くモニタリングするという(モントレー湾の観察調査とこの追跡調査を併せれば、海域におけるラッコの個体数の把握にも役立つ)。問題がある個体は水族館へ戻し、もう一度“ラッコの学校”に入学してもらう。2002年~16年の間にこのプログラムで養育して海に返した37頭のラッコは、みな野生で育った場合と同じように元気に暮らしているという。

こうして再び野生に放たれたラッコたちは繁殖し、やがて子どもが生まれる。初の試みとなるこうした取り組みの成果もあり、カリフォルニア沿岸におけるラッコの数は3,000頭まで増えた。

食欲旺盛なラッコは、極めて優れた生態系の“エンジニア”だ。体温と健康を維持するために、ラッコは体重の4分の1もの餌を1日で食べる。何度も海底へ潜っては、ウニやカニ、ハマグリなどの二枚貝を集めてくるのだ。

「ラッコは生きていくためにかなりの量の食べ物を必要とするので、生息域に多大な影響をもたらします。しかも、圧倒的に海にとってプラスの影響です」と、フジイは言う。なお、カリフォルニア北部の沿岸では別の「ウニの殺し屋」、すなわちウニ漁をする人間のダイバーを呼び戻す取り組みも進められている。

「ブルーカーボン生態系」の力

ジャイアントケルプの森は、主にふたつの点から生態系に欠かせない役割を担う。まず、ケルプの森は魚たちの住みかであり、その魚をアシカなどの海生哺乳動物や鳥たちが餌として生きている点である。

もうひとつは、ジャイアントケルプのような海藻が「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる生態系の一部である点だ。ブルーカーボンは海洋生態系に隔離・貯留される炭素のことで、ジャイアントケルプは沿岸域や海洋域で炭素を隔離してくれる(湿地やマングローブ林もブルーカーボンを貯留する)。

しかし、健全なケルプの森が具体的にどの程度の炭素を取り込むのか把握することは難しい。例えば、セコイアの木なら数百年を経て巨木に成長し、長い時間をかけて大量の炭素を隔離する(その間に火災に巻き込まれなければの話だが)。しかし、海の中はもっと流動的だ。ウニを含むあらゆる種類の生物が少しずつジャイアントケルプを餌にし、ふんとして炭素を排出する。さらに波の力でケルプが削られ、破片が海底に落ちて分解され、貯留されていた炭素を放出することもある。こうしてジャイアントケルプの森は減少と再生を繰り返し、炭素の隔離と放出を続けてきたのだ。

炭素がどれくらいの期間にわたり蓄積されるのか、正確には把握しづらい。「ジャイアントケルプの行く末ははっきりわかっていません」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のウィルマーズは言う。「排出されたものが海底に沈んで1,000年もの間そこにとどまるとしたらどうでしょう。排出してすぐに分解されてそのまま大気中に戻ってくる場合と比べたら、炭素の貯留という点での恩恵ははるかに大きくなります」

不確定な要素があることを念頭に置いたうえで、ウィルマーズはカナダ国境からアリューシャン列島西端までの太平洋岸北部において、安定した数のラッコが炭素の吸収にどれだけ貢献するかを試算した。その結果、ジャイアントケルプの森が十分に成長し、吸収する炭素量の半分が深海に貯留されると、自動車500万台分の排出量の削減に相当することがわかった。たとえ貯留される炭素が吸収量の1%相当だったとしても、クルマ10万台分の排出量に相当する量が削減されるという。

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