話の肖像画

輪島功一(25)耳ふさいだ「引退テンカウント」

11回、右アッパーから左フックを受けるとダウン。必死に立ち上がってカウント「9」でレフェリーがファイトを命じると、三迫会長がタオルを投じた。タオル投入(試合放棄の表明)は9年間で38戦に及んだ戦歴で最初で最後のことでした。7月15日、私は引退を表明しました。


《引退式はそれから1年以上たった53年11月15日に東京・水道橋の後楽園ホールで行われた》


当初は52年秋に引退式を開いてもらう予定だったのですが、延び延びになったのは私が引退の踏ん切りをつけられなかったからです。記者会見まで開いて引退表明しておきながら、本当に私は懲りない男なのです。

ジムでのトレーニングは続け、翌年4月に35歳になると猛烈なスパーリングも再開。しかし、これを見た三迫会長に「自分だけの問題じゃない。心配してくれている周囲の人のことも考えろ」と諭され、引退式に臨む決意をしました。

引退式では、恒例の「テンカウント」を聞くのが嫌で、耳をふさいでしまいました。もう終わりかと思うと、悲しかったのです。心の中で「神様、頼むからオレからボクシングを奪わないでくれ!」と叫んでいました。(聞き手 佐渡勝美)

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