熊木徹夫の人生相談

「もう関わらないで」と娘に言われ

イラスト・千葉真
イラスト・千葉真

相談

80代女性。心底悩み苦しい日が続いています。娘2人はそれぞれ家庭があります。50代の長女はここ10年、私が連絡しても応答や返信がない状況です。今年、長女が新型コロナ感染で入院したと次女に聞き、長女に「容体はどう」とメールをしたら、次の返信がありました。

「もうお願い、ほうっておいて」「世間体のためだけに母親面されるのがどんなに重荷か」「あなたが怖くて怖くて仕方がない」「あなたを排除したら、すごく心が楽になった」と。

今思えば、手をかけて育てたつもりが、理想通りにならないことにいらだち、必要以上に厳しくしたと思います。謝りの手紙を出しても、返事はありません。もう長女と円満になれないのでしょうか。そっとしておくべきでしょうか。娘は精神を病んでしまったのでしょうか。

回答

この苦しみ、いかばかりか。あなたの老い先を考えても、そう長い時間は残されていない。なのに、長女の心はあなたから離反し、容易には取り戻せそうにない。ではあなたは何を考え何を成すべきなのか、考えましょう。

まずはあなたの立場から。若かったあなたは、長女の子育てをめぐる理想と現実の懸隔(けんかく)に激しく苛立(いらだ)っていた。後先考える余裕がなく、ただ遮二無二(しゃにむに)突っ走った。このあなたの言動は、単なるあなたのわがままに発したものではなく、必ずや彼女の将来のためになるという〝信念〟に基づくものだったでしょう。

翻(ひるがえ)って彼女の立場はどうか。子供時代は誰しも、親の志向する教育方針に抗(あらが)えない。そもそも、親の怒りが親自身の鬱憤(うっぷん)解消のためだとしても、そこに気づくことさえできません。そして親の逆鱗(げきりん)に触れ続けると、自尊感情が激しく損なわれていく。時を経て、親の怒りが親のエゴからのものだと〝悟った〟とき、それまで隠忍自重(いんにんじちょう)の日々が長ければ長いほど、その反動からくる感情の迸(ほとばし)りはすさまじく、到底抑止できません。

ところで、あなたの最後の問い「娘は精神を病んでしまったのでしょうか」にあなたの本音、彼女の一連の抗議を〝理不尽な反逆〟だと感じていて、ほとぼりが冷めるまで待てば何とかなるとの思いが滲んでいる。しかし、こんな姿勢では永久に平行線でしょう。

絶望的なこの状況で、あなたが最期に母子共々和解し合えることを願うならば、徹底的に彼女の立場になって考える。そして、その姿勢を貫いたまま「遺書」をしたためる。後にそれを目にした彼女が翻意するという〝大逆転〟を祈るしかない。あなたの一念が彼女との壁を溶かし落とすことを、私も祈念します。

回答者

くまき・てつお 精神科医。昭和44年生まれ。「あいち熊木クリニック」院長。著書に「自己愛危機サバイバル」「ギャンブル依存症サバイバル」(ともに中外医学社)、「精神科医になる~患者を〈わかる〉ということ~」(中公新書)など。

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