許さない 未解決事件のいま

(2)消えたシルビア「コグレは生きている」 群馬一家殺害

殺害された石井武夫さん(左)と千津子さん(遺族提供)
殺害された石井武夫さん(左)と千津子さん(遺族提供)

「ストーカー」という言葉さえ浸透していなかった平成10年の初め。男のゆがんだ恋愛感情が一家3人惨殺という凶悪事件を引き起こした。殺人容疑で指名手配されている元トラック運転手の小暮洋史容疑者(52)は、職場で知り合った女性(44)を執拗(しつよう)につけ回し、女性の家族3人を殺害。車で逃走し、姿を消した。「私のせいで家族は死んだのか」。事件に苦しめられ続けた女性は、一日も早い犯人逮捕を願っている。

消えたシルビア

群馬県群馬町(現・高崎市)。事件が起きた民家はすでに取り壊されていた。近くに住む70代男性は今でも当時を思い出す。「あの日は大雪だった」。街で指名手配のポスターを見かけるたびにやりきれない気持ちになるという。「コグレはどこに行ったのか」

事件発生当時の石井武夫さん宅(右奥)と現場検証する県警捜査員。現在は民家は取り壊されている=平成10年1月15日午前1時、群馬県群馬町(現・高崎市)
事件発生当時の石井武夫さん宅(右奥)と現場検証する県警捜査員。現在は民家は取り壊されている=平成10年1月15日午前1時、群馬県群馬町(現・高崎市)

平成10年1月14日午後10時40分ごろ、石井武夫さん=当時(48)=宅で、長女が「自宅で男が暴れている」と110番通報。駆けつけた高崎署員が石井さんら一家3人の遺体を浴室や押し入れで発見した。

県警捜査1課によると、女性は同日午後9時ごろに帰宅。その直後、家に潜んでいた小暮容疑者に背後から襲われ、玄関すぐ脇の和室に引きずりこまれた。女性は抵抗し、興奮した様子の小暮容疑者を約1時間半にわたってなだめると、小暮容疑者は「家族は薬で眠らせている」と言い残し、姿を消した。

県警は小暮容疑者の逮捕状を請求。逃走に使用したとみられる黒色の日産シルビアの車両も判明し、逮捕は時間の問題と思われた。

だが、見つからなかった。県警は小暮容疑者を全国に指名手配。国道50号を水戸方面へ車で逃走したとみられるが、群馬県みどり市笠懸町周辺での車両の目撃情報を最後に、現在までに行方につながる有力情報は得られていない。

コグレは生きている

小暮容疑者は事件前、女性にストーカー行為を繰り返していた。女性の勤務先にトラック運転手として出入りする際に顔見知りになった。女性に好意を持ち、食事に誘ったが断られ、車で女性の後をつけ回したり、自宅近くを無断で訪れたりしていた。

小暮洋史容疑者の情報を呼びかけるポスター(県警提供)
小暮洋史容疑者の情報を呼びかけるポスター(県警提供)

つきまとい行為を取り締まる「ストーカー規制法」が成立したのは12年のこと。11年10月に起きた「桶川ストーカー殺人事件」が契機となったが、群馬一家殺害事件の発生当時、既存の法律は対象としておらず、女性は事件前に警察に相談もしていなかった。

ストーカー被害に遭っていた遺族の女性は事件以来「私のせいで家族が死んでしまったのではないか」と自分を強く責め、自殺を考えることもあったと明かす。ここ2、3年でようやく、事件を見つめ直せるようになったという。

事件の風化も懸念する。大きなショックによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状から抜け落ちている記憶もあり、「当時を思い出したい。何があったのか、私の口から伝えたい」と語る。小暮容疑者の逮捕を願う気持ちは今も変わらない。「(小暮容疑者が)もう死んでいるかもしれないと思うこともある。だが、生きているなら罪を償うべきだ」

群馬県警は今も寄せられる情報の「つぶし」の捜査を続ける。「コグレは生きている」。捜査1課重要事件特別捜査班の高橋稔警部はそう確信する。「被害者と家族の無念を晴らすことができるのは警察しかいない」。事件から24年となる来年1月14日ごろ、県警は事件の概要などをまとめた「指名手配動画」を初めて公開する方針だ。執念の捜査が「コグレ」を追い詰める。(浅上あゆみ)

群馬一家殺害事件 平成10年1月14日午後7時ごろから同9時ごろまでの間、群馬県群馬町(現・高崎市)の電気工事業、石井武夫さん=当時(48)=宅で、石井さんと妻の千津子さん=同(48)=が包丁で刺殺され、母親のトメさん=同(85)=が首を絞められ殺害された。小暮洋史容疑者の特徴は、身長170センチのやせ形で面長。手のにおいをかぐ、爪をかむ癖がある。情報提供は捜査本部のフリーダイヤル0120・547・590(ごよーなり こぐれ)。

 

 

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