政府が閣議決定した令和4年度予算案は、一般会計総額が107兆5千億円を超え、新型コロナウイルス禍で膨らんだ3年度当初予算を上回る過去最大規模となった。
この当初予算と、先に国会で成立した3年度補正予算を合わせた「16カ月予算」でコロナ禍を乗り切り、中長期的な経済の底上げにも万全を期すのが岸田文雄政権の狙いだ。36兆円近い補正予算も過去最大である。
コロナ禍がもたらした経済社会の危機的状況に対応するため、財政が果たすべき役割は大きく、積極的な財政出動をためらうべきときではない。同時にそれが、財政をさらに悪化させている現実も厳しく認識する必要がある。
懸念するのは、そうした問題意識が政府・与党にほとんど見受けられないことだ。コロナ禍に伴う経済対策とセットで財源確保が議論される欧米のような動きが日本にはない。むしろ、借金頼みで歳出を増やすことばかりである。
岸田首相は「経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」という。だからといって財政膨張について思考停止になるわけにはいかない。首相はコロナ収束後に財政運営をどう正常化するかについても明確に示すべきだ。
当初予算案では税収増を見込んで新規国債発行を抑え、国債依存度を前年度より低下させた。それでも歳入の3割以上が借金だ。補正予算は6割が国債で、相変わらず財政運営は厳しい。
歳出では成長と分配の好循環に資する予算に重点化した。科学技術振興やデジタル化、経済安全保障などの重視は評価できる。問題は、費用対効果を精査してメリハリを利かせられたかである。
当初予算案では、社会保障関係費を高齢化に伴う増加分にとどめるなどの取り組みもあるが、補正予算を含めると、ばらまき色が濃くなったことは明らかだ。子育て支援の政策目的を脇に置き、全額現金を認めた18歳以下への10万円相当給付はその典型である。
政府は今回、予算の単年度主義が中長期的な政策運営を妨げる弊害を是正するため、複数年度で使える基金も多用した。ただし、その運営が適正でなければ無駄が生じることにも注意すべきだ。
コロナ禍にかぎらず大規模災害などの危機に備えるためにも財政上の余力は必要だ。その点を忘れず適切な財政運営を求めたい。