「いいね」5万件 謎の書店員に響いた親子の会話

店内で棚の反対側から聞こえた親子の会話にうれしくなり、ツイートした「とある地方の書店員」ことyamabonさん(@yamabon1980)。多くの共感が寄せられた(写真はイメージ。イラスト=清水浩二、写真=渡部圭介)
店内で棚の反対側から聞こえた親子の会話にうれしくなり、ツイートした「とある地方の書店員」ことyamabonさん(@yamabon1980)。多くの共感が寄せられた(写真はイメージ。イラスト=清水浩二、写真=渡部圭介)

今年6月、ある匿名書店員のツイートが話題になった。「本屋さんに来て実際に棚を見るのがいいのよ」-店内で耳にした親子の会話に「嬉(うれ)しいなあ」と結んだ投稿に5万件近くの「いいね」がついた。自宅にいながらネットで簡単に本が買えて自宅に届くという時代の中で、厳しい競争にさらされている書店。リモート取材の画面越しに現れた謎の書店員は投稿の背景にあるさまざまな葛藤を明かしてくれたが、多くの「いいね」に「もっとお客さんと会話をしてみたら面白そうですね」と語った。

「どういうわけか矢野顕子さんが」

話題になったのは「とある地方の書店員」を名乗る「yamabon(@yamabon1980)」というアカウントが6月に発した以下のツイートだ。

《品出ししてたら、棚の向こうから母子の会話が聞こえてきた。「ネットだと自分が興味のあるものしか見ないけど、本屋さんに来てこうやって本棚見てると、思いもよらなかったものに『なにこれ、おもしろそう』ってなるでしょ、だから本屋さんに来て実際に棚を見るのがいいのよ」とお母さん。嬉しいなあ》

ツイートは12月17日現在、リツイートが約1万2千件、「いいね」が約5万件に上る。大きな話題となり、いくつかメディアにも取り上げられた。

yamabonさんによると、棚に本を並べていると、棚を挟んで反対側からツイートにある会話が聞こえてきた。親子がいたのは文庫本のコーナー。子供の声は中学生くらいの雰囲気だったという。

「こういう会話は聞くこと自体が珍しいので…」とうれしくなったyamabonさん。何げなくツイッターに投稿したところ、瞬く間に拡散され、多くの共感を呼んだ。

「どういうわけだか(シンガーソングライターの)矢野顕子さんがリツイートして紹介してくれて。それで話が大きくなった」と笑いつつ、反応の多さには「書店のことを、こんなに大切に思ってくれる人がいるんだなあと感じました」と照れくさそうに語った。

多くの共感を呼んだyamabonさんのツイート
多くの共感を呼んだyamabonさんのツイート

アマゾンの方が早い

インターネットを使えば好みの本はすぐに探し出せるし、自宅にいながら本が手に入る。書店を取り巻く環境について聞くと、巨大IT企業にしてネット通販界の巨人「アマゾン」という言葉が随所に出てくる。

「書店の場合、本の取り寄せは取次店を介すなどするため時間がかかります。アマゾンなら、早ければ注文の翌日に届くわけじゃないですか」。お客さんにお取り寄せを頼まれたとき、時間がかかることを伝え頭を下げつつ、「アマゾンで買った方が早いのに」と思う自分もいるという。

とにかく本を売らないと「書店も出版社もメシを食べていけない」と語るのだが、胸中は複雑だ。

例えば最近は新型コロナウイルスに関する本が売れる。同じようなタイトル、内容の本が次々と刊行されるが、それでも売れる。売れるから、取り寄せる。

「売れればなんでもいいのか、と感じることはありますね」

本好きではなかった

yamabonさんは本好きが高じて今の仕事に就いたのではない。さまざまなアルバイトを経験する中でなんとなく書店で働き始めたところ、本の面白さに魅了され、今は正社員として働いている。

アルバイト時代、文庫本の装丁を見たり、裏表紙の「あらすじ」を読んだりしているうちに、中身が気になって読んでみたら引き込まれた。「角川ホラー文庫から出ている恒川光太郎さんの『夜市』です。装丁がきれいで面白そうだったんです」

本の感想をポップに書いて、置いてみたところ「けっこう売れました」。自分が抱いた「面白い」という感覚が、お客さんにも伝わった気がしたという。

ポップ、棚に並べられている本の構成に、書店員は「いろんな本を手に取ってみてほしい」という思いを宿らせている。だからあの日、棚の向こうから聞こえてきた親子の会話がうれしかった。

yamabonさんは全国の書店員の思いを代弁するように「もっとお客さんと会話をしてみたら面白そうですね」とつぶやいた。

実をいうと、yamabonさんとはもともと互いに見知った仲。yamabonさん、そして書店にエールを送り、取材を終えた。(渡部圭介)