装丁入魂

3次元で恐怖感増す 『怖い家』エドガー・アラン・ポーほか著、ジョン・ランディス編、宮崎真紀訳 イラストレーター・星野勝之さん 

『怖い家』(エクスナレッジ)
『怖い家』(エクスナレッジ)

西洋の怪奇小説では、貴族の城や紳士の邸宅がしばしば舞台となる。例えていうなら「ハリー・ポッター」シリーズのホグワーツ魔法魔術学校のような建築である。重厚な石造り。そそり立つ尖塔(せんとう)。夜は無数のアーチ窓が暗闇に浮かび、今にも幽霊が出そうな雰囲気が訪れる者の恐怖心をあおる。

そんな幽霊屋敷小説の名作14編を集めた短編集が本書だ。エドガー・アラン・ポー著「アッシャー家の崩壊」では、「玄関ホールのゴシック様式のアーチ状の廊下」に入った語り手が「複雑に入り組んだいくつもの暗い廊下」を進む。ほかの短編でも「上階にあるはずの無数の空き部屋」を想像したり、「螺旋(らせん)階段を上へ下へ」とこだまが響いたり。建物の構造が効果的に使われている。

表紙のタイトルも尖塔やアーチ窓がびっしり並ぶ壁に四方を囲まれ、出口が分からず閉じ込められたようなホラー感がある。描いたのは、本の装画を中心に活動するイラストレーターの星野勝之さん(45)。3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)の手法を駆使し、奥行きのある空間を平面上に表現した。

「まず建物をつくり、アングルを動かして自分のベストな位置を探る」。手書きと違い、アングルや光と影の付け方は自在に試行錯誤できるが、やり直せるのは一長一短。「思っていた以上のものができてしまうので、自分が納得するまで時間がかかります」。完成度を高めようと、欲が出てしまうようだ。

中庭から見上げるユニークな構図は、本書のブックデザインを手がけた装丁家から、文字を中央に寄せるため絵をロの字形に置きたいという依頼を受けて考えた。

「短編集のカバーには2つのタイプがある。表題作をイメージするか全体的なイメージか。今回は表題作がない。昔の建築は中庭が重要ですし、14編の作中にロの字形の建物は出てこない。あとは下から見るか、上からか。怖い話なので夜空が見えた方がいい」

発行元は、建築専門誌を刊行する出版社。H・P・ラヴクラフトら巨匠の古典的名作も新訳で収録しており、編集者の「新訳で出すからには、モダンで斬新な印象を打ち出したい」という意向を踏まえて出来上がった。幽霊屋敷小説では、ろうそくの炎が揺れるなど調度品も読者を怖がらせるための重要なアイテム。星野さんが3DCGで描いた家具や燭台(しょくだい)などの扉絵が各編に付けられ、ページをめくるのも楽しい。

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