隣の受験戦争(下)

〝パトカーで試験〟の韓国「修能試験」、実は少数派 

韓国の「受験戦争」は日本でも良く知られている。日本の共通テストに例えられる韓国の大学修学能力試験(修能=スヌン)は11月中旬に行われ、今年も遅刻しそうな受験生をパトカーや白バイが会場へ送ったり、混雑緩和のため官公庁職員が通勤時間を遅らせたりする風物詩が各地で見られた。ただ、あまり知られていないが、修能を受けて大学に入学する学生は定員の約3割と実は少数派だ。大半の学生は、高校3年間の成績や活動を記した学生生活記録簿(学生簿)で選考されている。しかし、現政権は学校外の「私教育」を誘発するとして学生簿縮小、修能拡大を求め、入試制度は変遷している。

SKYを目指せ

名門医大への合格の切り札は、教科成績から大会入賞歴、ボランティア活動までを管理する高額の「入試コーディネーター」だった-。

2018年の韓国ドラマ「SKY(スカイ)キャッスル」は、財力や人脈をかけて受験戦争に臨む富裕層の姿を描き、韓国社会に経済格差や学校教育外の「私教育」偏重への批判を巻き起こした。

「韓国人の教育熱が高いのは事実。科挙制度(官吏登用試験)があった朝鮮時代から、子を親より上の階層に行かせるために、教育は希望のはしごと考えられてきた」

大学入試制度を研究している福岡大の韓国語講師、姜姫銀(カン・ヒウン)さんはこう話す。20年度の韓国の大学・専門大学進学率は72・5%(日本は大学・短大で58・6%)と高水準で、高校生の7割が私教育を受けているとされる。

ドラマ放映後、私教育批判の高まりの一方で同様の入試専門家の需要が急増。人よりも良い私教育を受けさせ、名門大に入れ、良い暮らしをさせたいと考える親は多いという。

韓国の大学入試は大きく2つに区分され、高校3年間の成績や活動を記載する学生簿選考を中心とした随時募集と、修能試験を中心とした定時募集がある。随時募集の合格者に修能最低点数を課す大学もあるが、日本の国公立大で共通テストを1次試験とする仕組みとは大きく異なる。

ドラマのタイトルにもなったSKY(スカイ)はソウル大、高麗(コリョ)大、延世(ヨンセ)大の頭文字で最難関大として知られている。SKYを初めソウル市内にある大学は「inソウル大学」と呼ばれ、就職にも有利とされる。このため受験戦争はソウルに一極集中し、韓国メディアによると、20年度入試では合格者の3人に1人が浪人生というほど狭き門だ。

ソウルでパトカーに乗って大学修学能力試験の会場に来た受験生(共同)
ソウルでパトカーに乗って大学修学能力試験の会場に来た受験生(共同)

不正もたびたび

超学歴社会の韓国では、ドラマをほうふつさせる不正入学事件もたびたび起きている。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の親友の娘が乗馬特待生として大学に不正入学した疑惑では、同年代の若者らが猛反発し、街頭デモが広がった。

文在寅(ムン・ジェイン)政権でも、最側近だった曺国(チョ・グク)元法相の娘の大学不正入学が発覚。大学教授の妻が娘の入試で提出した表彰状などを偽造したとして有罪判決を受けた。

特権階級の相次ぐ不正に国民の不信が渦巻く中、文政権は大学入試改革について市民団による討論会を実施。受験生や保護者、高校、大学関係者、教育専門家ら約500人の市民を集めて議論し、最も支持を集めたのが、「定時(修能選考)45%以上への拡大」だったという。

市民団の議論を受けて韓国教育部は19年11月に大学入試制度の改編方針を次のように発表した。

《高校の学生簿など選考資料が公正に記録されるよう、両親の経歴、私教育など外部要因を遮断》

《学生簿総合選考と論述選考に偏りがあるソウル所在16大学に、修能中心選考を40%以上とするよう勧告》

名指しされた「inソウル大学」16大学は、すでに22年度から修能を3~4割に拡大した。韓国大学教育協議会の入試情報サイトによると、21年度入試で学生簿選考が8割近かったソウル大は、22年度は学生簿選考を引き下げ、修能選考を3割に拡大。23年度入試では16大学がいずれも修能選考を4割に拡大する見通しだ。

また、24年度入試以降は、学生簿の記載項目のうち、私教育を誘発するとして学校教育外の受賞歴やボランティア活動、読書歴などが削除されるなど大きく変わりそうだ。政府の要請に従いソウルの各大学は修能拡大、学生簿縮小へと動くが、修能選考では塾が集中するソウル在住の受験生の合格者が多く、都市と地方の教育格差を懸念する声もある。

韓国人にとって大学入試は「人生の岐路」として関心が高く、政権ごとに大学入試改革が行われてきた。来年の大統領選後の動きも注目されるが、姜さんは「特に上位大学で入試の公正性を確保することは課題だが、グローバル化や産業構造の変化など急速な社会変動に対応できる創意的な人材育成を目指す方向性は変わらないはず」と分析する。

日本からも進学

在外国民や外国人を対象にした特別入試は定員外として行われ、主に高校3年間の成績と自己紹介書、面接で選考される。

日本と韓国の両国で認可を受けている私立建国高校(大阪市住吉区)は韓国の大学入試専門チームが指導し、毎年、延世大や慶煕(キョンヒ)大、成均館(ソンギュングァン)大など有名大の合格実績がある。新型コロナウイルスの影響で志望者は減少したが、今年も韓国人学生1人と日本人学生2人が合格した。

「卒業後、日韓どちらで働くのか、目的意識を明確にしてほしい」

韓国への進学希望者に助言するのは、盧明智(ノ・ミョンジ)教諭だ。在外国民、外国人対象の特別入試は韓国内の受験戦争ほどの熾烈さはないが、現地の就職事情は非常に厳しい。卒業後、語学力を生かして日本企業に就職するケースも多いという。

韓国語教師を目指したり、伝統芸能や芸術に取り組んだり、学生の志望動機はさまざま。韓国の高校教員を経て2年前に来日した李基雄教諭は、入試の自己紹介書や面接で「目指す進路に向けて、高校3年間でどのような活動をしてきたのか語れることが重要」と話す。

現地で就職するには、学歴とともに「学点」と呼ばれる大学の成績も重視される。入学後の授業や試験に付いていくためには、韓国語能力試験(TOPIK)最上級の6級や5級程度の語学力も必要という。(石川有紀)

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