隣の受験戦争(中)

95%が大卒 台湾は世界有数の高学歴社会

台湾は、世界有数の高学歴社会だ。台湾政府の教育統計によると、2020年に卒業した高校生の大学進学率は84・2%に上る。なかでも普通科の生徒の進学率は95・4%に達しており、文字通りの「大学全入時代」を迎えた。

大卒が当たり前という現状の中、大学院に進学する学生も多い。台湾の理工系大学を卒業し、現在は名古屋大大学院の博士課程で学ぶ呉昱忻(ご・いくきん)さん(26)は「台湾の理系の学生はほとんど修士課程に進学します。会社に入った後、修士の学位がないと低くみられてしまうこともある」と話す。

台湾は教育全体の底上げを図っている。義務教育は日本と同じ小中学校の計9年間だが、高校の3年間も含めた12年間を「国民基本教育」と定め、学費免除など教育の機会均等に向けた施策を強化している。高校への進学率は90%代後半で日本とほぼ同じ水準だ。

高校時代の成績を重視

若者の大多数が大学に進む台湾では、一体どのような受験戦争が繰り広げられているのか。

近年進められてきた大学入試改革の潮流は2つ。入学ルートの多様化と、高校時代の成績(学習ポートフォリオ、内申書)の重視だ。

22年から適用される新入試制度では、4つの受験ルートがある。9月に新学期が始まる台湾は2学期制をとっており、まず高校3年の前学期の1月末までに「特殊選抜」を実施する。ITなどさまざまな分野で特異な才能を発揮している人材を大学側が発掘するのが狙いだ。

冬休み期間中の1月末から2月初めには、受験生の大半が共通のテスト「大学学科能力測験(学測)」を受ける。これは日本の「大学入学共通テスト」に近い。後期の4月に学校推薦の手続きがあり、続いて5~6月には「個人申請」の試験がある。個人申請は生徒個人が志望大学を選び、大学ごとの筆記試験や面接に挑む仕組みだ。共通テスト「学測」の成績も踏まえるため、日本の国公立大入試に近いが、高校時代の内申書の評価が大きな比重を占める点が異なる。

個人申請でも入学が決まらない学生は、最後のチャンスとして再び共通の筆記試験「分科測験」を卒業後の7月に受ける。これは最初の共通テストである「学測」と合わせた点数のみで評価される仕組みだ。高校の成績が芳しくなかった生徒も、テストの点数だけで一発逆転が狙えるルートである。このほか、職業高校から理工系の大学に進学するための別の共通テストも存在する。

このように入試ルートの多様化は、さまざまなチャンスを与えるのが特徴だ。「受験生にとってはいい制度」(呉さん)と評価する声もある一方、「たくさんのルートがある分、多くの時間を費やして準備することになる」と負担の多さを指摘する意見も。制度上、入試を受ける期間は半年の〝長丁場〟に及ぶ。また最も入学定員が多い「個人申請」では高校の内申書が重要視されており、評価の公平性をいかに確保するかも課題だ。

台湾の大学を卒業後、京都芸術大大学院で学んでいる董千瑜(とう・せんゆ)さん(24)は「高校2年の後期から、教室に『入試まで何日』というカウントダウンが張り出されて、同級生みんなが緊張して過ごすようになりました」と振り返る。当時は教師が下校した後も友達と学校に残って自習し、夜10時ごろ帰宅するのが日課だったという。

台清交成

大学全入時代とはいえ、「台清交成」と呼ばれる台湾・清華・陽明交通・成功の国立4大学を頂点とする名門校を目指して多くの学生が激しい競争を繰り広げる点は以前と変わらない。

しかし、台湾で大学受験を経験した董さんによれば、同級生の間でギスギスした雰囲気はなかったという。「皆がライバルというよりは、一緒に頑張るパートナーという感じでした。一人では寂しいので皆で勉強する感じ」。これは台湾の精神風土も関係しているのかもしれない。

また学歴社会とはいえ「一流大学を出て一流企業(官庁)へ」という意識には変化もあるようだ。台北駐大阪経済文化弁事処の林育柔・文化教育課長によれば「台湾は転職しやすい環境があるので、自分のニーズに合う会社に入りたいという考え方が主流」。就職時には大学による選別が現実としてあるものの「転職が当たり前になる中、学歴よりも能力主義が強まっている」という。董さんも「最初の就職がゴールという意識はない」と話す。

資源に乏しい台湾は科学技術立国を志向し、そのための人材育成に力を入れている。今年10月、台南市の成功大に新設された半導体学院には、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)など15社が出資した。企業の人材ニーズに応じて大学がカリキュラムを新設することは台湾で広く行われている。

名門校を目指して多くの学生が激しい競争を繰り広げる=台湾大学(共同)
名門校を目指して多くの学生が激しい競争を繰り広げる=台湾大学(共同)

日本から留学する人も

台湾の大学で学位をとるために日本から正規留学する人が急増している。2020年度の大学在籍者は2147人で、過去9年間で4倍近くまで増加した。コロナ禍前の19年度と比べても1割以上増えた。台湾政府は学位取得を目指す正規留学者へのビザ発給を現在も継続しており、大学では対面授業が行われている。

台湾留学の魅力の一つは、中国語と英語の両方をマスターできる環境が整っていることだ。蔡英文総統は30年を目標に中国語と英語の「バイリンガル政策」を進めており、大学でも英語の授業が増えている。

外国人が台湾の大学に入学する際の選考方法は、高校時代の成績やエッセー、中国語力を測る「台湾華語能力検定(TOCFL)」の結果などを提出する書類審査が基本だ。中国語未学習者でも入学できるシステムがある大学や、4年間英語ですべての授業を受けることができる大学も多い。台湾政府が東京に開設している「日本台湾教育センター」の郭艶娜(かく・えんな)日本事務所長によると、日本人留学生で理系の学科に進む学生はまだ少ないが、医学部に進んだ〝猛者〟もいるという。

授業料は私立大、国立大を問わず年間35~70万円ほど。学費や生活費などを合わせた年間の総経費は100万円が目安だ。就職先は日本のメーカーやメディア、航空会社などのほか台湾企業にも多くの実績があるという。

郭所長は「自分のレベルにあった大学選びが大切。国立大学は周りも優秀で相当頑張らないといけない。在学中に無理だと感じたらできるだけ早く学校に相談することが大事で、他の学科に転科するか、他の大学に転校する道もある」とアドバイスしている。(西見由章)

台湾留学に関する問い合わせは同センター(☎03・3264・9362)。2022年3月10~13日にオンラインの留学フェアを開催予定。

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