関西の鍋

煮えたぎる音の魅力「じゅんじゅん」 すき焼き風で楽しむ湖魚

すき焼きといえば、醬油(しょうゆ)や砂糖、酒などからつくった割り下を使い、牛肉を煮込み、鶏卵を絡めて食べる-が一般的なイメージだが、琵琶湖を抱える滋賀では、湖魚をすき焼き風に味付けした「じゅんじゅん」と呼ばれる鍋料理が存在する。主に湖北、湖西、湖東地域の琵琶湖沿いで食べられ、普段の食卓から正月など晴れの日まで幅広いシーンで登場するご当地料理だ。

ウナギを牛肉風に

じゅんじゅんは、具材を煮るときに火にかけた鍋の煮えたぎる音が「じゅんじゅん」と聞こえたことが名前の由来とされている。

琵琶湖の漁師らが、とったウナギを牛肉に見立て、すき焼き風に煮て食べたのが始まりというのが通説だが、県食のブランド推進課によると、詳しい由来や発祥の地、時期などは今も不明な部分が多いという。

じゅんじゅんには、琵琶湖でとれた湖魚をメインの食材として使うことが多い。魚種は季節によってアユ、ウナギ、コイ、ワカサギ、イサザ、ナマズ、ホンモロコなどさまざまだ。

国内の湖で唯一の有人島として知られ、琵琶湖の漁獲量の約半分を担うとされる沖島(近江八幡市)では今の時期、コイを使った名物のじゅんじゅんを食べることができる。

湖東に位置する近江八幡市の堀切港から西に約1・5キロ。定期船で10分ほど揺られると、沖島に到着する。地元の「沖島漁業協同組合」では普段、島を訪れた観光客向けにじゅんじゅんを振る舞うことはないというが、今回は特別に漁協の婦人部「湖島婦貴(ことぶき)の会」が、コイを使ったじゅんじゅんをこしらえてくれた。

作り方はいたってシンプル。うろこを丁寧にとって切り身にしたコイを、コイの卵とともに鍋に入れて火にかける。出てきた灰汁(あく)を取った後、醬油と砂糖で味をつけ、大きめに切った大量のネギを加える。

好みでタマネギやゴボウ、麩、糸こんにゃくなどを加えることもあるというが、会長の茶谷美百合さん(69)は「メインの具材とネギのみで食べるのが本来の味に近い」と説明する。

漁港に隣接する沖島漁業会館で、琵琶湖を眺めながらできたてのじゅんじゅんを味わってみた。肉厚のコイを口に運ぶと、淡泊な身がほろりと崩れ、ほどよく染みた甘辛い味が口の中いっぱいに広がる。卵はプチプチと口の中で弾ける。すき焼きというよりも、煮つけに近いような印象を受けたが、「もっと煮詰めていけば、また味が変わる」(茶谷さん)という。

湖上の島で生きる人々の息遣いを感じながら食べる熱々のじゅんじゅんは、五臓六腑に染み渡り、冷えた体を温めてくれる。

家庭の味

県や湖島婦貴の会などによると、10年ほど前に〝沖島発〟の鍋料理としてじゅんじゅんを使ったツアーが企画されたのを機に、知名度が県内外に広がった。

県も平成30年、県内各地の料亭やホテルなど21店舗が用意したオリジナルのじゅんじゅんが味わえるキャンペーンを展開。現在でも大津市や彦根市などで、近江牛や近江しゃもなどのブランド肉を使ったじゅんじゅんも提供されている。

 コイを使った「じゅんじゅん」
コイを使った「じゅんじゅん」

漁業の島である沖島でも肉を使ったじゅんじゅんが食べられていた。茶谷さんによると、幼少期に島周辺に飛来したカモと、島内で採れたマツタケが入った豪勢なじゅんじゅんが食卓に並ぶこともあったという。

「魚を使うことが多いが、じゅんじゅんの基本は家庭の味。いろんな具材を入れた食べ方があっても、それはそれでじゅんじゅんらしくて良いと思う」と茶谷さん。じゅんじゅんはこれからも親から子へと継承され、心と体を温める。

琵琶湖の漁獲量 厳しさ増す

アユやウナギ、ホンモロコなどは、じゅんじゅんには欠かせない湖魚だが、琵琶湖の漁業を取り巻く環境は厳しさを増している。

県水産課によると、琵琶湖のすべての漁獲量からブラックバスなどの外来種を除いた実質的な漁獲量は、昭和30年の1万308トンをピークに徐々に減少。平成23年には976トンと千トンを割り込み、令和元年には811トンにまで落ち込んだ。

琵琶湖の環境変化や生態系の悪化、漁業従事者の高齢化に加え、川や海での漁業と比べて、もうけが少ないことによる将来の担い手不足などが背景にある。

茶谷さんは「今となっては、せっかく島に遊びに来てもらっても、観光客全員に提供できるだけのじゅんじゅんの具材を用意できないのが現状だ」と嘆く。(佐藤祐介)

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