論壇時評

1月号 民主主義「優位」世界で証明を 論説委員・岡部伸

オンライン形式の「民主主義サミット」に参加するバイデン米大統領=9日、ホワイトハウス(UPI=共同)
オンライン形式の「民主主義サミット」に参加するバイデン米大統領=9日、ホワイトハウス(UPI=共同)

収束しない新型コロナウイルスの感染拡大。世界は徹底した封じ込め策を取る専制的な「権威主義国家」を歓迎する傾向を強めてきた。今こそ民主主義陣営は結束を強め、民主主義の価値を高め、手を携えて台湾やウクライナ侵攻をもくろむ中露の野望を挫(くじ)き、強権主義に「勝利」しなければならない。

スウェーデンの調査機関V―Demが世界各国を調査したところ、2019年は権威主義国が92で民主主義国家87を18年ぶりに上回った。

コロナ禍が世界に広がる中、議会や選挙など時間と労力を要する手続きを省き、最高権力者が短時間で危機対応の決断ができる中国の権威主義システムは、独裁政権のモデルとなった。最新のデジタル技術を駆使し反体制運動を押さえ込む中国流の監視社会は魅力的にみえる。

中国はこの統治で世界第2位の経済大国に成長し、軍事的に米国の足元を脅かす存在となった。強権主義国家が中国流権威主義を取り入れてもおかしくない。

米国のバイデン大統領が「民主主義サミット」を開き、退潮傾向にあることへの危機感を示し、法の支配や表現の自由など民主主義の基盤強化を呼びかけたのも当然だ。

東北大学大学院准教授の東島雅晶は『中央公論』で、独裁体制の「変貌する統治手法」を解説して、興味深い。

中国の習近平体制による新疆ウイグルでの人権弾圧やロシアのプーチン体制による反体制政治家への暴力と抑圧などによる独裁政治特有の恐怖支配には、①情報が入手できにくくなり、統治の効率が低下②対外関係に悪影響を与え、国際援助縮小③敵対者を強化し大規模政府運動に発展―の代償がある。

このため独裁者が「生き残りを図る」ため、「選挙は、権威主義体制下でも民主的正当性を演出する制度装置として広く実施」されているという。

独裁体制でも中国などを除く約8割で選挙を実施し、「複数政党が参加しつつも、独裁者が様々な手法を用いて選挙を操作して政権交代を起こさせない、いわゆる『選挙独裁制』」が急増しているとの分析だ。

独裁者が露骨な不正に代わって選挙勝利での体制強化手段に利用するのが、公務員の給与上昇や雇用拡大、年金拡充など経済分配による大衆支持の獲得で「『恩愛という義務の鎖』を超えた体制安定効果に結びついている」と恩讐(おんしゅう)政治が権威主義体制に関係があると指摘する。

東島は、それに対抗するため「民主主義それ自体の不断の刷新」と「権威主義諸国に対する多次元の国際支援」の必要性を指摘する。

一方、中国で共産党が統治する権威主義体制が続く理由について、前国家安全保障局次長の兼原信克は『Voice』で、清王朝が崩壊して中華民国を建国した当時の時代背景に触れ、「中国が近代国家建設を始めた二十世紀前半は欧州で共産主義やナチズムやファシズムと言った全体主義が広がっていました。中国では国民党も共産党も必然的にその影響を色濃く受け、全体主義的な政党として成立した」と分析する。

自由主義的機運が高まった19世紀半ば、欧州から議会や憲法を取り入れ近代化に成功した日本と好対照である。

大戦後建国された中華人民共和国は、冷戦後、自由主義に向かうと考えられたが、共産国家が崩壊する中、共産党の生存を国家の至上目的に据えた。

中国には孟子が唱えた王道政治のように、「仁」で民を導く思想があった。しかし、共産主義の普及で、王道政治の精神を奪い去った。そして、兼原は「一億人の少数民族を抱える不均質な国で、いまだに真のアイデンティティを構築できていません。だから国内にはチベットやウイグルの問題のように、いまだに深刻な分断と火種が存在する」と論考する。

中国駐大阪総領事の薛剣は、『文芸春秋』で、「人権問題を口実に内政干渉するのは、アメリカなど所謂(いわゆる)先進国の常套(じょうとう)手段(中略)。香港と新疆に関する問題は、そもそも人権問題ではありません」と反論し、「少数民族政策については、中国は世界で一番よくできている国のひとつです」と中国式民主主義の優位をアピールし、日本も内政干渉すべきでないと反発する。

しかし、国民の人権と自由を制限する中国の体制は民主主義とはいえない。人権尊重は国連憲章に記された普遍的価値だ。欧米の中国批判は内政干渉に当たらないことは明白である。

また薛は「中国共産党の正確な指導のもとで、再び大国として復興しています(中略)。中華民族の復興は不可逆の歴史的なプロセスに入りました」と唱える。

だからこそ兼原は『Voice』で、「自由主義体制こそが思想競争において勝(まさ)ることを、世界に対して証明しなければならない。これは、(中略)今世紀最大の挑戦と言っても過言ではありません」と訴える。

英国のチャーチル首相は、「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば、だが」との名言を残した。つまり、民主主義は厄介な問題があるが、これに勝る政治のかたちはない、と喝破したのである。

冷戦時代、共産主義に勝利した民主主義は米中対決の21世紀も、公正な選挙などを通じて民主主義の魅力を高め、権威主義より「優位であること」を示さなくてはならない。

国際規範を破る中国に、日本は北京冬季五輪・パラリンピックで外交ボイコットを表明すべきだ。いま打ち出さなければ、中国の内政・外交政策を黙認し、「属国」になりかねないだろう。(敬称略)

=次回は1月27日掲載予定