教員の長時間労働の一因とされる中学・高校の部活動について、地域や民間の団体に委託する取り組みが始まっている。文部科学省は令和5年以降、段階的にスポーツ団体などへの外部委託を進める方針で、まずは公立校の休日の部活動から始め、将来的には教員の勤務時間外の部活動すべてを移行していく考えだ。教員の負担軽減につながるだけでなく、子供たちが専門性の高い指導を受けられるメリットがあり、学校現場ではさまざまな連携の形を模索している。
「だるまさんが転んだ」
11月中旬の土曜午後、大阪市平野区にある大阪教育大学付属高校平野校舎の体育館に、高校生の大きな声が響き渡った。走り寄る小学生が歓声をあげる。
今春、同高内に発足したスポーツクラブ「ひらの俱楽部」が実施する「小学生遊び教室」。同高の生徒や卒業生(OB・OG)が指導員となり、付属小の3~6年生約20人が参加した。
ひらの俱楽部は教員、高校生、保護者、卒業生、地域住民が理事を務め、それぞれの立場から運営に携わっている。文部科学省とスポーツ庁が推進する「総合型地域スポーツクラブ」でもあるが、同高ではスポーツに限らず文化系の部活動も包括する「スクール・コミュニティクラブ」と位置づける。今後は同高の部活指導を卒業生が引き受けたり、地域住民や子供が参加するヨガ教室などを開いたりさまざまな活動を展開する予定だ。
会長を務める同高教員、松田雅彦さん(58)は、同高の部活動を「地域委託と学校部活とのハイブリッド版」と説明する。ひらの俱楽部には学校側も参画しているため、部活に熱心な教員は指導を継続できる。また、生徒が高校卒業後もOB・OGとして同じ環境で活動を続けられるメリットもあるという。
小学3年の長男(9)が参加する様子を見学していた母親(42)は「今日は楽しませてもらう側だった息子が、将来クラブを支える側に回る日が来るかも」とほほえんだ。めざすのは、学校を中心に地域で人が交流し、関わり合う仕組みだ。
名古屋市は人材バンクを活用
小学校の部活動についても、独自の改革に乗り出した自治体がある。名古屋市では今秋、全市立小で部活動の民間委託に踏み切った。名古屋市名東区の市立高針(たかばり)小の部活動は週3日、4~6年生が参加し、サッカーやバスケットボールなどの活動に取り組む。
放課後、運動着に着替えて校庭に集まったサッカー部の児童たちを指導するのは、「なごや部活動人材バンク」に登録している水野克規(かつのり)さん(25)。中学校での教員経験があり、現在は名古屋市内の小学校4校でサッカー部の指導に当たる。校内にいる小学校の教員はたまに様子を見る程度で、指導には関わらない。
同バンクは子供向けスポーツ教室を展開する「リーフラス」(東京)が運営し、競技歴のある市民や学生など約4千人が登録。指導者研修などを経て、各学校に派遣されている。
外部人材が学校で指導に当たることについて同社東海支社の加藤純一郎副支社長(38)は「ケガや児童同士のケンカなどといったトラブルの未然防止に努めるのはもちろんだが、ささいなことでも保護者への報告を怠らない」ときめ細やかな対応を心掛ける。
教員「休日に休める」
これまで名古屋市では市立小教員の4割が顧問を引き受け、場合によっては週に6時間程度、部活動指導に当たっていた。顧問に選ばれても競技経験があるとは限らず、ルールすら知らない部活を担当することも。教員が試合の引率で土日に出勤しなければならないことも多かったという。
「休日にちゃんと休めるようになった」。同小の早川洋司校長は委託後、現場の教員がこう話すのを聞き、外部委託の効果を実感した。自身もかつて複数の部の顧問を兼務したことがあり、「睡眠時間を削って授業の準備をしていた」と苦笑する。