主張

飯塚前代表死去 国は故人の思いに応えよ

拉致被害者、田口八重子さんの兄で、14年の長きにわたって被害者家族会の代表を務めた飯塚繁雄さんが18日、亡くなった。83歳だった。

横田めぐみさんの父親で家族会の初代代表を務めた滋さんから代表を引き継ぎ、めぐみさんの弟の拓也さんに3代目を託したばかりだった。

滋さんや飯塚さんをはじめとする、北朝鮮に娘を、妹を、肉親を奪われ、帰国を待ち続けた家族らが、亡くなっていく。これは問題長期化の残酷さを象徴している。その度、時の首相らは「痛恨の極み」と語るが、家族らが望む拉致被害者全員の帰国に向けて、事態は全く、進展をみせていない。ほ

もちろん悪いのは、拉致という国家犯罪を頻発させながら再調査の約束を反故(ほご)にし、交渉に応じようとすらしない北朝鮮である。

だが家族会の怒りは、被害者を取り戻すことができない政府にも向けられている。工場でものづくりに携わってきた飯塚さんは、政府に「工程表」を示すよう求め続けてきた。どのように被害者を奪回するか、具体的な道筋を示してほしいということだ。

岸田文雄首相は11月13日、国民大集会に出席し、「拉致問題は岸田内閣の最重要課題だ。私の手で必ず解決しなければと強く考えている」「金正恩氏と条件を付けずに直接向き合う決意だ」と述べた。立派な決意だが、飯塚さんが求めてきた具体性に乏しい。それは歴代首相も同様だった。

安倍晋三元首相の働きかけもあり、米朝首脳会談で当時のトランプ米大統領が拉致問題を会談の俎上(そじょう)に載せたのが唯一、解決への期待をもたせる成果だったが、それも腰砕けに終わった。

政府は飯塚さんらの思いに本気で応える気があるのか。あるならばそれは、行動で示されなくてはならない。一筋縄ではいかない相手であることは承知の上で求めたい。家族会と国民に示し、北朝鮮に突きつける、拉致解決に向けた工程表を披瀝(ひれき)せよ、と。

飯塚さんが亡くなった同じ日、神戸市で「拉致問題を考える国民のつどい」が開かれ、93歳の有本明弘さんは娘の拉致被害者、恵子さんに「助け出すまで、もうちょっと待っとけ」と呼びかけ、「私はあと何年生きられるか分かりませんが、結末を見届けたい」と述べた。老いた父親の望む結末を用意すべきは政府である。