勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(373)

一場騒動 突然の巨人・渡辺オーナー辞任

全日本大学野球選手権で大会史上4人目の完全試合を達成した明大の一場靖弘投手=平成16年6月
全日本大学野球選手権で大会史上4人目の完全試合を達成した明大の一場靖弘投手=平成16年6月

■勇者の物語(372)

このまま「1リーグ制」導入で押し切られてしまうのか―。そんな球界の空気をぶち破る大事件が起こった。『一場騒動』である。

平成16年のドラフトの目玉は、大学屈指の右腕といわれた明大の一場靖弘投手。最高時速154キロの速球を武器に大学通算26勝15敗。多くの球団が「自由枠」での獲得を狙っていた。そんな中、巨人のスカウトが一場に計200万円を与えていたことが発覚したのである。

一場によれば、この年の5月から5~6回、巨人のスカウトと会い「栄養費」の名目で手渡されたという。「受け取ってはいけないことは知っていたが、強引に押し付けられ、やむを得なかった。申し訳ない気持ちでいっぱいです」と一場は頭を垂れた。

日本学生野球憲章では、プロ野球への入団を条件とする金品の支給または貸与を受けることを禁じている。渡辺オーナーは内部調査を厳命。その結果、球団幹部も容認していたことが分かった。

8月13日、巨人は東京・大手町の読売新聞本社で渡辺オーナーの辞任を発表。球団の土井社長、三山代表、高山副代表の3人も解任となった。

渡辺オーナーは『多くの関係者がプロ野球をどう発展させるかを真剣に議論している大事な時期に、ルール違反を犯した責任は重く、自らの道義的な責任も痛感しており、辞任しました』という談話を発表した。

突然の辞任劇の裏には「1リーグ制」に反対する球団や労組選手会などの格好の攻撃材料となるのを避け、「あとは院政の形で力を振るうつもり」―と噂された。事実、この事件以降も渡辺前オーナーの存在は変わらず大きかった。ただ、「弱点」も分かったという。

孤軍奮闘していた阪神の野崎球団社長はこう分析した。

「球界で絶大な力を誇っていた渡辺さんですが、意外と世間の目や声を気にする性格であることが分かりました」

それは「1リーグ制」の流れを止める大きなヒントになったのである。

「一場騒動」は巨人だけの騒動では終わらなかった。10月には横浜や阪神も金品を渡していたことが発覚。横浜・砂原オーナー、阪神・久万オーナーが引責辞任。そして野崎球団社長も「辞任」に追い込まれたのである。(敬称略)

■勇者の物語(374)