園長は獣医さん

飼育は難しいが戻る日が待ち遠しいゾウ

大阪市の天王寺動物園にいたゾウの「ラニー博子」=平成27年
大阪市の天王寺動物園にいたゾウの「ラニー博子」=平成27年

一段と冷え込みが厳しくなってきました。天王寺動物園のチュウゴクオオカミやホンドタヌキ、ニホンアナグマなど毛替わりする動物たちはモコモコの冬毛になり、暖かそうです。

来月25日は、平成30年にこの世を去った天王寺動物園のゾウ「ラニー博子」の命日です。「動物園で思い浮かぶ動物は」と聞かれれば、ゾウをあげる人は多いでしょう。童謡にもあるように多くの人に親しまれていますが、実は飼育が難しい動物でもあります。

体長5~6メートル、高さ約3メートル、体重3トン超にもなる陸上最大の動物。飼育には、危険な大型動物という課題があります。飼育中の事故で飼育員がケガをしたり、ときには死亡したりするケースが起きています。

10数年前まで、ゾウの飼育管理方法は、大きく分けて「直接飼育」と「間接飼育」がありました。

ゾウに直接触れて飼育する「直接飼育」は、タイなど生息地で行われている調教の方法です。利点は多いのですが、動物園では常に危険と隣り合わせです。

ゾウは頭の良い動物で、飼育チームをよく観察し、職員に序列をつけることがあります。誰が「ボス」かを見極め、それ以外の飼育員がボスと同じことをやろうとすると、長い鼻で攻撃して来る場合があります。ゾウは遊びのつもりでも、人間にはかなりのダメージです。このようなゾウは、物理的な距離を取る間接飼育をせざるを得ない場合があります。

ただ、全くゾウに触れない間接飼育では、ケアが十分できないことも起こり得ます。札幌市円山動物園にいたころ「リリー」というアジアゾウの前足の蹄(ひづめ)の周囲が化膿(かのう)し、立っていられなくなりました。それが原因で衰弱し力尽きてしまいました。間接飼育で足のケアが十分できなかったことが原因といえます。

現在、世界の動物園で注目されているのは、直接飼育と間接飼育の中間の「準・間接飼育」です(プロテクテッドコンタクト)。22年10月、欧州を視察し、新しい飼育管理方法としてとても参考になりました。

ゾウとは檻(おり)を介して安全にトレーニングします。檻は斜めの格子になっており、万が一、鼻や牙による攻撃があっても力を分散させます。手順通り実施すれば、誰でもできるトレーニング方法です。床材はコンクリートではなく、深く砂を敷き詰めます。長く横になることができ、歩くことで自然と蹄も研げます。今後導入しなければならない飼育管理方法です。

ラニー博子が旅立ち、天王寺動物園にゾウはいなくなりました。ゾウの戻る日を心待ちにしています。

天王寺動物園園長(理事兼務)獣医師 向井猛

【略歴】むかい・たけし 神奈川県藤沢市出身。北海道大大学院獣医学研究科修士課程修了後、札幌市の円山動物園で獣医や職員として勤務した。今年4月から天王寺動物園園長。漫画『動物のお医者さん』に「M山動物園の向田獣医」として登場した。