「完全天日塩」…自然の力を借り 職人が育てる

へらを使って海水をかき混ぜる小松拓磨さん。ハウス内の温度は冬でも30度を超える日があり、夏場は60度に達することも
へらを使って海水をかき混ぜる小松拓磨さん。ハウス内の温度は冬でも30度を超える日があり、夏場は60度に達することも

料理のおいしさの要となる塩。高知県では、海の水を太陽と風の力だけで蒸発させる「完全天日塩」づくりが盛んに行われている。環境への負荷の少ないサステナブル(持続可能)な製法として注目される一方で、料理人の注文に応じて粒の大きさや味を変える〝塩のオーダーメード〟も人気を呼んでいる。(榊聡美)

地下海水は「世界初」

天日で乾燥させてつくる天日塩の中でも、釜炊きをせず、海水をくんでから出来上がるまでの全工程を自然の力で行うのが完全天日塩と呼ばれる製法だ。

「田野屋銀象」の屋号を持つ、小松拓磨さん(28)は、3年間の修業を経て、高知県土佐市にある仁淀(によど)川の河口近くに工房を構え、今年4月から本格的に塩づくりを始めた。従来の完全天日塩と異なるのは、地下海水を使っていること。小松さんは「おそらく世界でも初めて」と話す。

「ここは目の前が太平洋で地面を掘ると海水が湧いてきます。ただ、塩分濃度は2%しかない。仁淀川の伏流水と混ざり合って、汽水くらいの濃度になっていると推測しています」

くみ上げた地下海水をまず循環させて、塩分濃度を普通の海水程度(3~4%)まで上げる。手間も時間も余分にかかるが、「じっくりと時間をかけるほうが僕には好都合」と笑顔を見せる。

一皿に合わせて

「La Cime」では小松さんの塩をデザートに使用。冬に甘みが増す根菜のパースニップを使ったアイスクリーム(手前)と、チュロスの仕上げにふり、絶妙なアクセントに
「La Cime」では小松さんの塩をデザートに使用。冬に甘みが増す根菜のパースニップを使ったアイスクリーム(手前)と、チュロスの仕上げにふり、絶妙なアクセントに

小松さんが手掛けるのはオーダーメードの塩。粒の大きさ、形、味のバランス、口の中で溶けるスピード、後味の余韻の長さ、さらにはふり心地に至るまで…。料理人の要望に応じて「この一皿」を引き立てるための塩をつくり上げる。

太陽がさんさんと降り注ぐビニールハウスには、約260個の木箱が整然と並ぶ。機械らしいものは何もない。木箱に海水を流し入れ、手作業で一箱ごとに特徴の異なる塩を育てる。

基本の作業は3つ。専用のへらを使って2~3時間おきに混ぜる。適宜、海水を継ぎ足す。窓の開閉具合でハウス内の気温や湿度、風の通りを調節する。

毎日見て触って、攪拌(かくはん)して自身の感覚を頼りに、「結晶をコントロールしながら」仕上げていく。

山の恵みを含んだ地下海水はミネラルが豊富で、繊細な味が引き出せるとか。「ミネラルといってもカリウムは酸味に近く、マグネシウムは苦味というように一つ一つ味が違います。どの成分をどれくらい残して結晶化させるかで、全く違う味わいになります」

寒い冬が旬

完成には、夏でも最短で2カ月、日照時間が短い冬場は半年かかることも。「ゆっくり育つ分、細かい調整がしやすくて、狙った結晶や味になりやすい。ですから、うちの塩の旬は冬、といえますね」

休みなく朝から晩まで続く塩の世話は、妻の晴果さん(27)と二人三脚で。晴果さんも「田野屋白鯉(はくり)」の名を持つ塩職人だ。まさに2人で手塩にかけて育てた滋味豊かな塩は、200種類を超える。

料理人にとって、オーダーメードの塩にはこんな効果もある。5年連続でミシュランガイドの2つ星を獲得しているフレンチの名店「La Cime(ラ・シーム)」(大阪市中央区)の高田裕介シェフ(44)は、こう語る。

「職人としてのものづくりへのこだわりは共感できます。使うと生産者や自然に対して感謝を込めて料理に向き合うことができる。一皿に気持ちがのります」