日曜に書く

論説委員・井伊重之 日本の財政は持続可能か

衆院本会議で令和3年度補正予算案が賛成多数で可決された=15日午後、国会・衆院本会議場(矢島康弘撮影)
衆院本会議で令和3年度補正予算案が賛成多数で可決された=15日午後、国会・衆院本会議場(矢島康弘撮影)

日本の財政で異常事態が続いている。衆院を通過した今年度補正予算案は、新型コロナウイルス禍に伴う大型経済対策を反映し、35兆円を超える過去最大の追加歳出を盛り込んだ。やはり過去最大の歳出が見込まれる来年度予算案も近く決まる。

欧米諸国もコロナ禍を克服するための大型対策を講じ、次世代インフラ投資などで歳出を大きく拡大させている。ただ、欧米の経済対策は財源と一体で議論されるのが通例だ。米国では生活支援金の財源で富裕層への課税強化が検討され、英国は法人税や所得税の増税を決めた。欧米では金融政策も正常化を目指す動きが始まった。

大盤振る舞いが常態化

これに対し、日本ではリーマン・ショックや東日本大震災、そして今回のコロナ禍と財政支出の大盤振る舞いが常態化している。日銀の金融政策は脱デフレ対策で10年近く歴史的な金融緩和状態にある。非常時に経済を支えるための大規模な財政支出は当然だが、そうした事態が長年続く日本の財政は果たして持続可能といえるのか。

大型経済対策を主導した自民党で今月、財政をめぐる2つの本部が動き出した。1つは高市早苗政調会長の下で発足した「財政政策検討本部」だ。安倍晋三元首相を最高顧問に迎え、従来の財政再建推進本部を刷新し、積極財政を通じて日本経済の成長を目指すのが狙いだ。

もう1つは岸田文雄総裁(首相)の直属機関で、麻生太郎副総裁が最高顧問の「財政健全化推進本部」だ。こちらは財政再建の重要性を強調しており、財務省がお膳立てをしたようだ。あいさつに立った岸田総裁は「国の信頼を維持する財政健全化を考える姿勢は、政治にとって大きな責任だ」と語った。

独立した財政検証機関を

財政について、自民党内のタカ派とハト派がぶつかり合う構図といえる。両本部の発足は、矢野康治財務事務次官が先の衆院選の直前に月刊誌で「予算のばらまき批判」を展開したのが契機となった。財政のあり方をめぐって建設的な論争に期待したいところだが、そこでは岸田首相の下での党運営をめぐる主導権争いも透けてみえる。

矢野氏が懸念するような日本財政の破綻論は極端だとしても、「このまま莫大(ばくだい)な財政出動を続けていても大丈夫なのか」という素朴な疑問は、国民だれもが感じているだろう。そこで考えたいのが、財政運営をめぐる独立した検証機関である。欧州では政治とは一線を画し、独立した財政検証機関(IFI)が相次いで誕生しているが、日本にはそうした機関がない。

欧州の財政検証機関は、リーマン・ショックによる景気落ち込みを受け、大規模な財政出動が実施された2010年以降に設立されたものが多い。財政政策がもたらす将来への影響などを評価・検証する役割を担う組織だ。経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国のうち、そうした財政検証機関を保有している国は30カ国近くある。

オランダでは公約も検証

なかでもオランダの財政検証機関「経済政策分析局」(CPB)は有名だ。政府機関ながら政治的に強い独立性が与えられ、選挙前に各政党はCPBに自分たちの公約を提出し、そのコストや経済に与える効果・影響などの検証を受ける。政策によっては矛盾点などが指摘されることも多いという。CPBの指摘を受けて各党は公約を修正したり、議論をさらに深めたりするという。

わが国では内閣府が半年ごとに中長期の経済財政試算を公表し、首相が議長を務める経済財政諮問会議が財政健全化目標を示したうえで、財務省が予算を編成する仕組みだ。ただ、これらは政府・与党内で完結するため、客観的な検証がない構造的な問題を抱えている。

こうした中で経済界でも悪化が続く日本財政の持続可能性に危機感を募らせ、独立した財政検証機関の設立を求める声が高まっている。経済同友会や関西経済連合会は、財政に関する政策提言の中で財政検証の必要性を指摘し、政府から独立して財政を監視・検証する組織を求めている。今年6月には財政検証機関の設立を求める超党派の議員連盟も発足した。

衆院選で野党は消費減税を公約に掲げたが、その影響は検証されなかった。これでは国民は公約の是非を判断できない。財政検証機関が誕生すれば、財政の持続可能性を高めるだけでなく、各党に責任ある政策提案を促す契機になるかもしれない。(いい しげゆき)