ザ・インタビュー

「帰ってくんな」おかんの一言に覚醒 お笑い芸人 加賀翔さん「おおあんごう」

「この本は読む人によってはつらく感じるところがあるかもしれないので、元気なときに読んでください」と話す加賀翔さん(鴨志田拓海撮影)
「この本は読む人によってはつらく感じるところがあるかもしれないので、元気なときに読んでください」と話す加賀翔さん(鴨志田拓海撮影)

「おおあんごう」は岡山弁で「おおばかもの」の意味。「お笑い第7世代」といわれる若手世代の人気コンビ「かが屋」の加賀翔さんは11月、父親の口癖だったこの言葉をタイトルにした初小説を上梓(じょうし)、発売前から重版となるなど話題を呼んでいる。物語は、繊細な心の少年が、粗暴な父親の理不尽な言動に振り回されながらも、痛みや悲しみを「笑い」に変え、懸命に生きる様子を描く。実話ではないが、自身が子供時代に経験したことをオブラートに包んで小説にしたという。

「小説を書くにあたっていろんなことを考えたけど、小説を書く人って自分の根幹にあるものだったり経験したりしたものを一回出さないと次には進めないかな、と。じゃあ僕は岡山出身なので、岡山のことをモチーフにして、家族に対する思いがいろいろあったので、そこを書こうと思った。読み方としては、完全に実話と思うか、完全に作り物と思うか、のどちらかで読んでもらえれば」

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小説の舞台と同じく、山も川も田んぼも海もある自然に囲まれた岡山の田舎で育った。父親は、酒が飲めるのがかっこいいと思っていたのか、酒が強い母親に負けたくなかったのか、酒が弱いのに飲んでは暴れた。小学4年のときに父母が離婚、以降は母親と暮らす。

「暴れる父に対する恐怖とかしんどさはあったが、僕には母という逃げ道があった。父と離婚後、母は僕をちゃんと育てなきゃいけないと無理しまくっていた。でも、つらいとか言うのを聞いたことがない。明るいんです。僕は母から無償の愛を受けた。それは感謝です。母にはすごく影響を受けたんだけど、母の話は面白くない。それで僕はお笑いが好きになった」

お笑いの道に進んだ直接のきっかけは、高校の同級生に吉本総合芸能学院(NSC)大阪校に入ろうと誘われたことだ。高校を中退して大阪で生活を始めたものの、誘った友人は入学式前に入学を辞退。自身も実家に帰ろうと母親に電話したら、「帰ってくんな」と突き放された。

「おかんが言うに、『お笑いの道、芸事が簡単じゃないのは当たり前。半年かそこらでやめんな』と。『いやいやちょっと待って、無理だよ、帰る』と言っても、『帰ってくんな』の一点張り。『お笑いでどうしようもなくなるまで頑張ったと思えるまで頑張ってきなさい』って。それでこっちも意地になって、じゃあ一生懸命やるか、となった」

その後に上京し、アルバイト先で出会った賀屋壮也さんと意気投合し平成27年にコンビを結成。日常を切り取ったリアルなコントで注目を浴び、お笑い界を席巻する「第7世代」の一角を担う存在となった。

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昨年、講談社の月刊文芸雑誌「群像」8月号にエッセーを執筆。アルコール依存症の父親のどうしようもなさと、自分がその父の子であることをたんたんとつづった内容だ。担当編集者から「面白いのでもうちょっと長く書いてみたら」と勧められ、さらに話が広がり「小説を書いてみましょう」となった。

昨年8月、体調不良で活動を休止。小説を書くのも休んだ。今年3月に復帰し、小説も再び書き始めたが、休む前と感覚が変わったこともあり、ほぼすべてを書き直したという。

「おかげさまで元気になれ、小説をちゃんと形にできた。書くのはすんごいしんどかったけど、少しずつ勉強しながら書き上げた。自分で小説を書いたおかげで、読むのもすごく面白くなった。今は(小説を書いたときの)感覚を忘れたくない。書かなきゃ、と思う。死ぬまでにもう1冊は書きたいですね」

3つのQ

Q最近撮った写真でお気に入りは?

ドリフターズさんや東京03さん、ももいろクローバーZさんと武道館でやったライブの集合写真

Q岡山のよいところは?

果物がおいしいところ。晴王(シャインマスカット)はほんとにおいしい

Q新型コロナで変わったことは?

人とリアルで話すありがたみを痛感した。リモートだとちょっと緩んじゃっていまいちなので

かが・しょう 平成5年、岡山県生まれ。27年、相方の賀屋壮也とお笑いコンビ「かが屋」を結成。令和元年にコント師の日本一を決める「キングオブコント2019」で決勝進出。ラジオやテレビのバラエティー番組に出演する他、趣味の短歌と自由律俳句のイベントにも出演するなどマルチに活躍している。

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