近ごろ都に流行るもの

「ジンの日本酒化」国産品が輸入を逆転 スッキリ!和の個性

おでんやポテサラ、カモの薫製にも合う翠ジンソーダ=東京都目黒区の「目黒日本酒バル いと。スタンド」(重松明子撮影)
おでんやポテサラ、カモの薫製にも合う翠ジンソーダ=東京都目黒区の「目黒日本酒バル いと。スタンド」(重松明子撮影)

オランダで「薬酒」として生まれ、英米で発展したスピリッツ「ジン」が日本酒化し、国内で和の香り高いジンが続々商品化されている。ジンの定義はシンプルで「ジュニパーベリー(針葉樹・西洋ネズの実)を使ったアルコール度数37・5%以上の蒸留酒」。自由に原料ハーブを追加できるため、酒ごとの個性と生産地の風土も味わえる。東京の山の手から下町へ…。営業制限が解けた日本酒バーを訪ねると、ジンのグラスが交わされていた。気になる糖質もほぼゼロ。その爽やかさが「もう1杯」を誘う。

熱々おでんやポテサラと

目黒駅から西へ下る権之助坂の「目黒日本酒バル いと。スタンド」。名物のおでん(3品550円)とともに地酒約30銘柄をそろえているが昨年、サントリーが発売したジン「翠(すい、SUI)」をラインアップに加えた。ソーダ割り、ロックともに1杯660円。

「日本酒を飲み続けると重く感じてきますが、翠はゆずの香りやショウガの後味でスッキリする。最初の1杯、リセットの1杯、〆の1杯と幅広く、日本酒好きがハマっています」と中嶋明日美店長(38)。

地元住民を中心に客数はコロナ前の約7割に回復。定員16人ほどの小さな店で翠は1日平均20杯以上、多い日は50杯も出るそうだ。熱々のおでんによし、カモの薫製やポテトサラダなど定番のつまみに、ジンが和の香りを添える。

糖質制限志向も追い風

輸入品が主流だったジンだが今年、市場構成比を国産品が逆転。昨年の34%から54%へと一気に20ポイントも上昇した(インテージ調べ、1~8月実績)。

「マティーニのベースなどハードな印象が強かったジンですが、『国産なら飲めそう』と購入される方も多い。ハイボール、レモンサワーに続く第3のソーダ割りとして広がっている。糖質制限志向も追い風です」。翠のブランドマネジャー、サントリースピリッツの白村雄太さん(32)は手応えを語った。

翠は昨年3月発売。昭和11年から続くジン蒸留の伝統を礎に、ゆず、緑茶、ショウガも使用し大衆的な国産ジンの新境地をひらいた。700ミリリットルボトルで希望小売価格1518円。今年は当初の販売計画を上方修正し、前年比2・6倍の25万ケース(300万本)を達成する見込みだ。

スモーキーな味わいも

上野駅から東に昭和通りを越え、リトルコリア街を横目に抜けた下町にある日本酒専門パブ「GASHUE(ガシュエ)」。レアな地酒の数々が自慢だが、今月から岩手県二戸市の日本酒造「南部美人」によるジン(ストレート、トニックなど1杯950円)の扱いを始め、同県産の食材を使った料理(580円、780円)も開発した。

南部美人のジンは〝生〟でも柔らかな口当たり。岩手食材のつまみと=東京都台東区の「GASHUE」(重松明子撮影)
南部美人のジンは〝生〟でも柔らかな口当たり。岩手食材のつまみと=東京都台東区の「GASHUE」(重松明子撮影)

酒米のライスコロッケを割ると三陸「サヴァ缶」の濃密なサバの身…。日本酒を蒸留したジンは口当たりが柔らかく、酒米同士のマリアージュを堪能する。驚きは、二戸漆器の素材「浄法寺漆」の原木を炙(あぶ)ってのジンの風味付けだ。スモーキーな余韻が唯一無二の上品さを漂わす。ジンに南部美人の梅酒をブレンドした紫色のカクテル「雪紫陽花(ゆきあじさい)」(1千円)も美しい。

ガシュエの加古史明社長(64)は総合商社の出身だ。「世界の視点で気付いた日本酒文化の魅力と価値を、世代や国境を超えて伝えたい」。定年退職後の3年前に店を開いた。2年前のラグビーW杯日本開催時には客の外国人比率が過半数に達し、約30席が連日満席の大盛況となった。一転、コロナ禍での苦境はランチ営業で乗り切った。

今は各蔵元を講師に招いたイベントを再開。開店時から講師役を受けてくれた南部美人の久慈浩介社長(49)に感謝し、ジンへの挑戦も東京から支える。ボトルは南部美人のネットショップで4730円(700ミリリットル)で購入できる。

小さな蒸留所も各地に誕生し、日本の酒の新たな希望になった国産ジン。そろりと飲んで応援したい。(重松明子)

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