「ナトリウムイオン電池」は、EVの新たな動力源になるか

タピア=ルイスによると、これまでナトリウムイオン電池はその化学的な安定性も背景に、商品化が遅れていたという。ナトリウムとリチウムは周期表では近い位置にあるものの、化学的には“平行宇宙”に存在し、多様な元素や化合物に対する反応が異なる。つまり、バッテリーの材料をリチウムからナトリウムに置き換えることは、充電と放電の際にイオンを捕獲して放出する正極と負極の材料となる新たな物質を開発しなければならないことを意味する。

なかでも問題になるのは、バッテリー内部の化学反応によって電極間にある電解質を破壊したり、電池の寿命が短くなったり、爆発しやすいナトリウム金属が生成されたりする恐れがあることだ。

もうひとつの問題は、エネルギー密度の高いナトリウムイオン電池は、多くのリチウムイオン電池と同様にニッケルが含まれている点である。ニッケルの除去は研究者にとって、重要だが難しい課題だ。「それでも持続可能性があって環境に優しい技術をつくりたいなら、ニッケルの除去は正しいことなのです」と、タピア=ルイスは言う。

この数十年で地道な成果

こうしたなか、ナトリウムの研究に取り組む少数の研究室やスタートアップは、この数十年で地道な成果を上げてきた。

カリフォルニアを拠点とするスタートアップのNatron Energyは、主に産業施設やデータセンターのバックアップ電源用のナトリウムイオン電池を製造している。同社が電極の材料に採用しているのは、プルシアンブルーという物質だ。この物質は、葛飾北斎が描いた浮世絵「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」など伝統的な絵画に用いられており、青の合成顔料としては最も古い種類に属する。

Natron Energyのバッテリーの内部設計は、標準的なナトリウムイオン電池と比べてもエネルギー密度が特に高いわけではない。だが、同社の販売担当バイスプレジデントのジャック・プシェによると、このナトリウムイオン電池の利点は「サプライチェーンを地元で展開できること」だという。このバッテリーはナトリウム、マグネシウム、鉄などの一般的な元素からなり、工場はカリフォルニア州サンタクララにある。

Natron Energyのナトリウムイオン電池は蓄電能力には欠けるが、充電も放電も早い。EVに利用するなら、航続距離を伸ばすよりもパワーを出すほうに向いている。そこで同社はこのナトリウムイオン電池を、送電網がひっ迫しているときにEVを急速充電する際に利用できると考えている。すでにEVの急速充電装置をサンディエゴに設置する計画を進行中だと、プシェは説明する。

もうひとつのセールスポイントは安全性だ。プシェは、オーストラリアの蓄電施設での大規模火災やカリフォルニアの蓄電施設での過熱などの蓄電池貯蔵システムにおける事故を挙げた上で、火災の発生は少ないとしても、あらゆる人の家にバッテリーを設置すること得策かどうか懸念を示す。

「わが家の車庫で出火しては困りますから」と、プシェは言う。Natron Energyのウェブサイトでは、同社のバッテリーパックを粉砕したり、加熱したり、銃で撃ったりするデモ動画をアップしているが、いずれの場合も問題は生じていないようだ。

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