「ナトリウムイオン電池」は、EVの新たな動力源になるか

安定確保が難しいリチウム

今回のCATLの発表は「ナトリウムの研究に取り組んでいる人々に新たな活力を与えました」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校でリチウムとナトリウムについて幅広く研究するバッテリー科学者のシャーリー・メンは言う。

若手教授のメンがナトリウムの研究を始めたのは、自らをアピールする上でうってつけの風変わりなニッチ分野を探していたからだ。それと同時に、ナトリウムには電池の材料として可能性があると信じていたからでもある。「ナトリウムイオン電池の成功を阻んだ最大の障壁は、リチウムイオン電池が非常に成功したからです」と、メンは語る。

リチウム自体は、そこまで希少な金属でない。ただ、リチウムの鉱床は採掘困難な場所に集中している。このためCATLのような企業は、主にオーストラリアやアンデス山脈にある限られた数の鉱山から、供給量の一部を確保すべく競っている。

米国には、地球温暖化の緩和に役立つリチウムイオン電池の製造のために国内でもリチウムを採掘すべきとする考えと、リチウム鉱山周辺の自然環境を保護すべきとする考えがある。このため北米に埋蔵されているリチウムの採掘は、こうした環境論争に巻き込まれるかたちで進まず、米国ではEVのサプライチェーンの保全に関する懸念が高まっている。

電池の材料供給を巡る競争については、イーロン・マスクがその価格と供給の制約からEV用バッテリーの未来における「最大の懸念材料」と呼ぶニッケルや、その70%がコンゴ共和国で採掘されているコバルトのほうがリチウムよりも激しい。

カリフォルニア大学のメンによると、より多くの鉱床が開発されば、世界中のクルマすべてに動力を与えられるだけのリチウムが入手できるようになるという。だが、それでもクルマ以外で電動化が進んでいる製品すべてに必要な動力をまかなえるようになるわけではない。リチウムイオン電池は、主にマイクログリッドでの負荷を管理し、夜間に屋上の太陽光パネルが暗くなっているときに明かりを灯し続けるためにも用いられる。

リチウムイオン電池のこうした使用例は、メンがナトリウムの研究を始めたころに考えていた用途である。「家に食品用の冷蔵庫があるのと同じように、電子のための冷蔵庫が求められるようになると考えていました」と、メンは言う。「まさにグリッドストレージの発想です」

安定性という課題

ナトリウムは通常はソーダ灰(炭酸ナトリウム)から得られる一般的な元素だが、海水や沼沢地の泥炭など基本的にどこにでもある。そしてメンが説明する用途にちょうど適している。ナトリウムイオンはリチウムイオンよりもやや重く大きいので、クルマの底部のような狭いスペースに多くのエネルギーを蓄える用途には向かない。

「ナトリウムイオン電池は送電網に大きなインパクトをもたらす可能性があります」と、バッテリーに関する調査団体のファラデー財団でナトリウムイオン電池の計画を率いるランカスター大学教授のヌリア・タピア=ルイスは指摘する。ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池よりもやや大きく重くなるが、動かさずにそのまま設置しておけばいいので、重さや大きさは問題にならないからだ。

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