記者発

コロナ禍で阻まれる「頭脳流入」 科学部・松田麻希

ノーベル物理学賞のメダルを手に笑顔を見せる真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員=6日、米ワシントンの科学アカデミー(ロイター)
ノーベル物理学賞のメダルを手に笑顔を見せる真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員=6日、米ワシントンの科学アカデミー(ロイター)

今年を振り返ると、科学分野で最大のニュースはなんといっても米プリンストン大の真鍋淑郎博士のノーベル物理学賞受賞だ。朗報とともに大きくクローズアップされたのが、半世紀以上前に起きた「頭脳流出」だった。

博士は大学院を出て間もなく渡米し、日本にはない最新鋭のコンピューターを使って偉大な研究業績を挙げた。研究環境を充実させなければ、今後も優秀な人材が流出すると危惧する報道が相次いだ。

「流出」の一方で、日本の科学界に大きな打撃となると懸念されるのが、日本で活躍してくれるはずだった優秀な頭脳の「流入」が阻まれていることだ。この点に気づかされたのも、くしくもノーベル賞取材だった。

同賞の発表シーズンを前に、科学担当の記者は受賞が有力視される研究者を取材する。近況を伺う中で、研究室に加わる予定だった海外の研究者や留学生が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う入国規制で、日本に入国できず困っているという話を聞いた。

「日本からは海外に出ていけるのに、こちらには入って来られない。いつまで待ってくれるか」。状況が長引けば、日本への渡航をあきらめ、他国の研究機関に人材を奪われるかもしれないと、苦悩をにじませた。

先進7カ国(G7)各国が研究者の国際的な交流や留学生の受け入れを再開する中で、日本だけが厳しい入国規制を続ける局面もあった。

国際的な人材交流や共同研究は、研究力を強化し、研究コミュニティーで日本の存在感を維持するために欠かせない。世界に比して厳格過ぎる規制を敷いて、人材を招き入れる機会を失えば、日本の科学力に長期的な影響を残しかねない。

もちろん、コロナ蔓延(まんえん)を防ぐ水際対策は何より重要だ。オミクロン変異株が出現した現在はなおのこと、入国規制を強化する動きが世界中で起きているのは当然といえる。しかし、ワクチンの追加接種や医療体制の整備などの対策が進めば、いずれ段階的に緩和されていくだろう。

世界に後れを取らず、感染対策の徹底と社会経済活動の両立を目指す中では、研究や留学を目的とした外国人の入国についても柔軟な対応が求められそうだ。

【プロフィル】松田麻希

平成20年入社。東京本社で経済本部、文化部などを経て30年から科学部。ノーベル賞取材では、量子コンピューター関連など物理学賞を主に担当。