大阪市北区の繁華街・北新地にある雑居ビル4階のクリニックから出火し、24人が死亡した火災で、被害現場となった「西梅田こころとからだのクリニック」の西澤弘太郎院長は、優しく親身になって診察してくれることで知られていた。通院していた患者たちは、院長の安否を気遣った。
《自分自身が患者様の立場になった時にこうであればいいなと思い診療してまいりました》。クリニックのホームページには、院長のあいさつの言葉がこうつづられている。
西澤院長は、その言葉を体現したような人だという。4年前からクリニックに通院している50代女性は「冷静ながら愛情のある人だった。社会復帰を果たせたのは先生のおかげ」と感謝の気持ちを表した。
クリニックは精神科や心療内科の診療が専門で、働く人の鬱病やパニック障害などをサポート。女性によると、患者は40~50代男性が多く、多いときには30人以上の患者が訪れていることもあった。それでも、「院内で人がもめたり、トラブルになったりしているのは見たことがない」。
女性が治療でパニックになった際は、院長が親身になって相談に乗り、丁寧に治療法を説明してくれた。「患者さん思いで、患者の状況に合わせて段階的に治療してくれる先生だった」と振り返る。
そうした中、女性の社会復帰にとりわけ寄与したのが、クリニックの集団治療「リワークプログラム」だ。日によって人数は異なるが、おおむね1回あたり十数人の患者が参加する。院長は患者一人一人の言葉に耳を傾けた上で、「こんな考え方もある」と提案してくれた。「先生はいつも『大丈夫』と声をかけてくれた。リワークで私は立ち直れた」と話した。
一方、令和元年8月から約8カ月間通院していたという40代男性も、リワークプログラムに参加したことがある。「リワークを通じて患者同士で仲良くしている人も結構いた。何年も継続して通院される人も多いと思う」と打ち明ける。西澤院長に対しては「穏やかで、少し早口だけど患者の状況に応じて客観的かつ的確に説明をしてくれた」と振り返った。
火災は17日午前10時20分ごろ、大阪市北区曽根崎新地の堂島北ビルで発生。クリニックの一部約25平方メートルが燃え、30分ほどで鎮圧された。クリニックにいた27人が心肺停止で搬送され、このうち24人の死亡が確認されている。