来季、就任4年目で1年勝負の矢野燿大監督(53)への強力バックアップ体制となるのだろうか…。阪神球団のトップ交代の〝効果〟は極めて不透明と言わざるを得ない。
阪神の第15代球団社長に来年1月から阪神電鉄の百北(ももきた)幸司常務(60)が就任する。藤原崇起(たかおき)オーナー(69)=電鉄本社会長=が兼務していた球団社長職を退任し、オーナー職は続けていく。来週に大阪・野田の電鉄本社内で取締役会が開かれ、正式決定する。
百北氏は坂井信也前オーナー、藤原オーナーの秘書部長や甲子園球場の演出などを担当する阪神コンテンツリンクの社長を歴任。現在は電鉄本社の常務(スポーツ・エンタテインメント事業本部長)として、阪急阪神ホールディングス(HD)の株主総会で株主からタイガース関連の質問を受けていた。球団への出向経験はない。
昨年10月、新型コロナウイルス感染者がチーム内に相次ぎ、阪急阪神HDの角和夫会長が「ケジメをつけさせます」と激怒したこともあり、責任を取る形で揚塩健治球団社長が辞任。藤原オーナーが球団史上初めて球団社長を兼務していた。それから、わずか1年で球団社長が交代する。
今回の球団社長の交代の舞台裏について、電鉄本社の関係者は「完全に藤原オーナーの意向だ。昨年、オーナー職と球団社長を兼務した際、ある程度の期間が経てば球団社長を誰かに譲る考えだった。今季、チームが最後まで優勝を争ったし、後任につなぐには最適なタイミングと判断したのだろう」と話していた。
つまり、オーナー兼球団社長が誕生した昨年の人事はあくまでも〝緊急避難〟の色彩が強く、今回のトップ交代で従来の「電鉄トップがオーナー→部下が球団社長」の図式に戻す。しかし、瓢箪から駒? で生まれた球団史上初のオーナー兼球団社長というポストはチーム内外で好評だった。
従来の球団社長は電鉄本社では「部長クラス」の人材が落下傘的に務めてきた歴史がある。電鉄本社の重役が球団社長職に就いたのは小津正次郎球団社長、日航機墜落の犠牲者となった中埜肇球団社長、それに三好一彦球団社長の3人。その他の球団社長は電鉄本社では役員の肩書を持たなかった。なので監督人事や巨額の戦力補強費などについて本社側の意向に逆らえず、球団社長は報告はするけども、意思決定の決裁権については組織上4~5番手だったのだ。
球団でいくら会議を重ねて、本社に具申しても返答は遅く、球団の意見は曲げられることも再々。それが藤原オーナー兼球団社長の誕生からは随分と様子が変わった。ある球団幹部はこう話していた。
「藤原オーナーは球団の会議にもよく出席して、現場の問題点などを熟知していた。なので問題の処理がスピーディー。球団の考えや、方向性が電鉄本社の中枢と共有できていた。何度も球団社長が〝本社参り〟に行く必要もなかった」
百北氏は電鉄本社の役員だ。球団社長と兼務ならばチームの問題点や方向性を電鉄の中枢にスピード感を持って報告し、処理するだろう。そういう意味では球団のプロパーが社長に昇格するよりも良かった…とは言えるが、これほど好評だったオーナー兼球団社長のポストをなぜ1年で終わらせる必要があったのか。チーム周辺には早くも「どうしてオーナーは1年限りで球団社長から引くのか…」という声が流れている。
まして、来季は矢野監督の勝負のシーズンだ。守護神スアレスが流出し、厳しい戦いが予想される。藤原-百北体制がこれまで以上に球団や現場に寄り添った組織になることを切に願いたい。(特別記者)