アートウォッチ

時を超える、幸せなものづくり 「ザ・フィンランドデザイン展」ナビゲーターの皆川明さんに聞く

本展ナビゲーターの皆川明さん。音声コンテンツでは、皆川さんがフィンランドへの思いをつづった文章をJーWAVEナビゲーターのクリス智子さんが朗読している
本展ナビゲーターの皆川明さん。音声コンテンツでは、皆川さんがフィンランドへの思いをつづった文章をJーWAVEナビゲーターのクリス智子さんが朗読している

豊かな自然から着想したデザインが、日々の暮らしに息づく北欧フィンランド。「ザ・フィンランドデザイン展-自然が宿るライフスタイル」(産経新聞社など主催)が、東京都渋谷区のBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている。本展ナビゲーターを務めるのは、ファッションを中心に生活全般を彩るブランド「ミナ ペルホネン」のデザイナー、皆川明さんだ。長年同国と関わりが深く、今回音声コンテンツのテキストも執筆した皆川さんに、フィンランドデザインの魅力や展覧会の見どころを聞いた。

「ある一人の作家やブランドに焦点を当てた企画展はこれまでもありましたが、今回はフィンランドデザイン全体を時系列でたどる大変貴重な機会。その上で、各デザイナーの代表作を見たり、世代ごとの影響関係や素材別の流れを追えたりと、いろんな視点や文脈で鑑賞できるのが楽しい。まさに〝ザ〟というべき展覧会ですね」。同国がデザインを通して近代的生活を推進した1930~70年代のテキスタイル、ガラス製品や陶磁器、家具、絵画など約250点と関係資料で構成されている。

長く愛せるもの

皆川さんが初めてフィンランドを訪れたのは35年前、19歳の冬のことで、まだファッションデザインを学ぶ学生だった。「寒く薄暗い中に、柔らかな明かりが見えた。そして簡素だけれど、明るさや楽しさのあるモノのたたずまいに心がひかれた。人とデザインが寄り添う-そんな感覚を初めて味わった」と振り返る。

欧米を中心に当時のファッション界では、トレンドという名のもとに新作が次々に作られては、すぐ過去のものとして消費されていた。ところがフィンランドの人々は伝統的に、長く愛着を持って使えるものを求めてきた。アルテックの家具に、アラビア製陶所の陶器、イッタラのガラス器、マリメッコのテキスタイル…。「各メーカーのデザイナーたちが、一過性の強い刺激ではなく、ずっと使えるものを丹念にかたちにしているなと感じた」。本展にも、何十年と作り続けられている名品が並ぶが、「今も古さを感じないし、これからも感じないでしょう」。展覧会に並ぶ「作品」の一部は今も世界中で販売され、買えるのがうれしい。

子供が触れるデザインにもこだわりが。木製おもちゃや「ベビーパッケージ」で贈られる衣服も展示(飯田英男撮影)
子供が触れるデザインにもこだわりが。木製おもちゃや「ベビーパッケージ」で贈られる衣服も展示(飯田英男撮影)

皆川さん自身、輸入家具店を営む祖父母が北欧家具を扱っていたこともあり、早くからフィンランド製品には比較的なじみがあったという。カイ・フランク(1911~89年)による食器「ティーマ」や、イルマリ・タピオヴァーラ(1914~99年)の名作「ドムスチェア」など、長年愛用しているデザインは多い。

「今までにない、革新的なものはもちろん素晴らしいですけど、ものを長く使う、変わらないものを大事に作り続けるといった視点は、環境や社会のいろんな問題の解決につながっていくのかなと思います」

簡素だけど温かい

北欧デザインとひとくくりにしがちだが、フィンランドデザインは他とどう違うのか。

「一言でいえば、簡素。でも温かさとつながっている」と皆川さん。さらに、「シンプルなプロセスで作っている。それは長く作り続けること、消費者にとって手に入れやすいということにもつながる。アルテックの『スツール60』などが当てはまりますね」と指摘する。

1930年代から生産されている定番「スツール60」といえば、座面の張地にミナ ペルホネンのファブリックを使うというコラボレーションもあった。「アルテックのショーウインドーを眺めていた19歳の冬の記憶がよみがえりました。いつしか(同社と)一緒に仕事ができるなんて、人生は不思議なものだなと思います。時がたてばたつほど、最初に北欧を旅したときの経験がとても重要だったと感じます」

自然から生まれる

コロナ禍になる前には、夏の1カ月を現地で過ごすなど、定期的にフィンランドを訪れていた皆川さん。

「フィンランドでは、日々の暮らしが豊かな自然とつながっている。休日に森でベリーを摘んだりキノコを採ったり、湖畔のサウナ小屋で心身をゆっくり休ませたり…。毎日の営みからデザイナーは、道具や装いやアートを生み出しています」

デザイナーとは、自らの体験とイマジネーションを携えて、素材と機能を融合させる仕事という。例えばフィンランドを代表する建築家、アルヴァ・アアルト(1898~1976年)の有名なガラスの花瓶「サヴォイ」は、湖やオーロラを想起させる。氷山から杏茸(アンズタケ)まで、同国らしい自然を表現したタピオ・ヴィルッカラ(1915~85年)のガラス器も魅力的だ。自然とつながる衣服や道具などは、使い手にも喜びをもたらす。

手描きの線の揺らぎ

自然から着想した、息の長いデザインとその精神性は「ミナ ペルホネン」のものづくりにも通じる。「暮らしの中にあって、長く着られる特別な服」を、皆川さんは一貫して目指してきた。手で図案を描き、職人とともに丹念にオリジナルの生地を生み出し、服を作る。

「画一的な線はなにか、温度が足りないって感じる。手で描いたものの自然な揺らぎは、呼吸にも似ていて、ものに生命力を与え、人とのつながりを深めてくれる気がします」。針葉樹の森を表現した「メッツァ(フィンランド語で森)」など、フィンランド各地を旅した印象から生まれた図柄も。どの生地も、どの服も、それを生み出すまでの時間や記憶が刻まれ、詩的な情趣をたたえている。

長年フィンランドを愛し、2019年の日本・フィンランド外交関係樹立100周年の際には親善大使も務めた皆川さん。本展ではナビゲーターを務めるだけでなく、音声コンテンツの制作にも参加した。皆川さんがフィンランドへの思いをエッセーでつづり、それをJ-WAVEナビゲーターのクリス智子さんが朗読。フィンランドデザインへの理解を深める上でも、聞き逃せないコンテンツに仕上がっている。

「ベビーパッケージ」に感心

展示の中で、皆川さんを最も感心させたのが、フィンランドの「ベビーパッケージ」だ。国が子供が生まれた家族に贈る子育てセットで、良質なデザインのベビー服や道具、ぬいぐるみなど一式が詰まっている。「子供たちが初めて出会うデザインが、国からサポートされる。そういう土壌から、良いデザイナーや良い生活者が育ってきたんだなと、腑に落ちました」とほほ笑む。

「家族とか、小さな単位の暮らしをいかに楽しく、幸せなものにするか。技術やツールが発達し、社会は目まぐるしく変化するけれど、自分に近いところはあまり変わらないで、ずっと続いていく…。その中に、幸福感があるんだと、今回の展覧会から感じ取れるかもしれません。日本とフィンランドは共に、海に囲まれ森も多く、資源をあまり持たない国ですが、そこで暮らす喜びについて、互いに気づく機会になれば面白いと思います」

「ザ・フィンランドデザイン展」は2022年1月30日まで。入場料は一般1700円、大学・高校生1000円、中・小学生700円。1月1日のみ休館。土日祝日および最終週(1月24~30日)はオンラインによる入場日時予約が必要。詳細は展覧会サイト(https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_Finland/)で確認を。