弁護士、無断で訴訟か 裁判所が「不適法」認定

京都弁護士会所属の男性弁護士が原告側の訴訟代理人となった貸金返還請求訴訟をめぐり、大津地裁が「訴えは原告の意思に基づかない」として、却下判決を言い渡していたことが15日、関係者への取材で分かった。原告とされた女性は訴訟係属中に当事者とされていることに気づき、「弁護士に依頼した覚えはなく、氏名を無断で使われた」と裁判所に申し立てていた。

貸金返還訴訟では女性名義の訴訟委任状や陳述書が弁護士を通じて裁判所に提出されており、女性は「書面が偽造された」として、同弁護士会に懲戒請求するとともに、慰謝料などを求める訴訟を起こした。

訴訟関連資料や関係者の話によると、貸金返還訴訟は平成29年8月に大津地裁で始まった。女性が大津市内の男女2人に貸し付けたとする貸金と利息計約1200万円の返還を求めるもので、女性と面識のあった男性弁護士が訴訟代理人となる旨の委任状が地裁に出された。

さらに令和元年11月には女性の署名と押印が入った陳述書も証拠提出され、「(貸金が)私自身の現金で間違いない」と記されていた。

ところが女性は昨年2月になって「弁護士に訴訟を委任していない」とする上申書を地裁に提出。「氏名を無断で使われた」と訴えの却下を求めた。

訴訟では、債務者とされた被告側の男女2人も「女性から現金を借りた覚えはない」と主張。2人は貸金の担保とされた不動産の競売を差し止めるための仮処分を大津地裁に申請し、地裁は当事者が意見を述べる審尋を3回開いたが、女性はいずれも姿を見せず、弁護士は「体調不良のため出席できない」と、裁判所に理由を説明していた。

今年3月の地裁判決は、女性が昨年2月に上申書を提出するまで、当事者として一度も訴訟手続きに参加していなかったことや、女性あての裁判資料の送達先が女性の住所ではなく京都市内の金融業者だったことなどを踏まえ、「訴えは原告の意思に基づかないものとして、不適法といわざるを得ない」と判断。貸金返還の当否には踏み込まずに訴えを却下し、判決はすでに確定した。

複数の関係者によると、女性の兄はかつて京都市内で金融業を営み、この男性弁護士とは業務上のやり取りがあった。女性は取材に対し、兄が過去に行った貸し付けで「債権者として名義を貸したことがある」とは認めたが、訴訟の原告にされているとは気づかず、知人に教えられて裁判所に上申書を出したという。京都弁護士会には弁護士の懲戒を請求、8月には約220万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴している。

一方の男性弁護士は取材に「コメントすることはない」と回答したが、女性との損害賠償請求訴訟の答弁書では「女性は兄からの依頼で印鑑などを預け、金融業で名義を使わせていた」と主張。この名義貸しをもって、貸金返還請求訴訟の原告となることも含めた「承諾」があったと反論している。

こうした経緯について、裁判官として38年間のキャリアがある松丸伸一郎弁護士は「このような事例は聞いたことがない」と話し、「原告の名義を無断で使い、訴訟委任状などを裁判所に提出したとすれば、文書偽造などの罪にあたる可能性もある」と指摘した。