石油化学事業の大規模再編幕開けか 最大手・三菱ケミカル分離発表

三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソン社長
三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソン社長

化学業界最大手の三菱ケミカルホールディングス(HD)が、主力の石油化学事業を分離する方針を打ち出した。石化事業は汎用(はんよう)品が多く採算性が低い上、景気に左右されやすく利益変動が大きい。人口減で国内市場の縮小も避けられず、大幅な収益改善が見込めないと判断した。最大手の決断は、大規模な国内再編の口火となる可能性がある。

「日本における統合再編は避けられない」

三菱ケミカルHDが今月1日に開いた経営説明会。石化事業の分離を発表したジョンマーク・ギルソン社長は、事業環境の厳しさをそう表現。発表資料には、「国内基礎化学産業の再編を主導します」と明記されていた。

同社は分離時期を令和6年3月までに設定。まず4年度中に、他社との事業統合や新規株式公開(IPO)、保有株売却といった分離再編手法を決める方針だ。統合を選んだ場合は、その翌年度に相手先との交渉を進めるという。製鉄向けに石炭を蒸し焼きにしたコークスを製造する炭素事業の切り離しも決めた。

重要性は低下しているとはいえ、石化は同社の主力であり続けてきた。連結売上高に占める割合は3年3月期で13.2%。新型コロナウイルス感染拡大の影響がほとんどなかった2年3月期は14.9%を占めた。一方、3年3月期の本業のもうけを示すコア営業損益は、全体が1747億円の黒字だったのに対し、15億円の赤字と低迷している。

分離の判断には脱炭素化も影響している。日本の石油化学コンビナートでは、まず原油由来のナフサ(粗製ガソリン)を熱分解して基礎原料のエチレンを製造し、そのエチレンを原料にポリエチレンなど川下の「誘導品」を作っているため、大量の二酸化炭素(CO2)を排出している。しかも脱炭素化が進むことで「日本のエネルギーコストは大きく上昇していく」(ギルソン氏)とみられている。

初の外国人トップとして4月に就任したギルソン氏は、事業の選択と集中を進めることで、低いと指摘される収益力を底上げする考えを示していた。今後はエレクトロニクスやヘルスケア&ライフサイエンスといった分野を中心に、収益性の高い製品へのシフトを加速する方針。石化の分離などで8年3月期の売上高は3兆円まで減るが、コア営業利益率を11~13%(3年3月期は5.4%)に高める計画だ。

同社による決断は再編機運を高め、同業他社の追随を誘発しそうだ。だが、再編の枠組みが決まったとしても、設備の統廃合にまで踏み込むとなると、多くの課題をクリアする必要があるのが実情だ。

日本国内にはコンビナートの核となるエチレン製造設備が12基ある。石油化学工業協会によると、稼働率は新型コロナの影響を受けた昨年の3月と5月を除けば、平成25年12月以降、長期にわたって好不調の目安となる90%を超えてきた。しかしそれは、5年以上前に行われた再編の効果による部分が大きい。足元は好調でも、国内市場の縮小が進めば再び設備過剰に陥る可能性が高い。

だが、過去の再編によって、エチレン設備が1基しかないコンビナートが大半になっている。さらなる統廃合でエチレン設備が消える地域が出れば、川下にぶら下がる多くの誘導品メーカーが影響を受けざるを得ない。三菱ケミカルHDには単に事業を手放すだけでなく、各社の利害を調整した上での統廃合という「複雑な方程式」(業界関係者)を解くための強力なリーダーシップが求められている。(井田通人)