【ワシントン=大内清、シンガポール=森浩】ブリンケン米国務長官が東南アジア歴訪の最初の訪問国としてインドネシアを選んだのは、地域の盟主を自任する同国との関係強化が中国への抑止と「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた要とみているためだ。中国との東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の〝争奪戦〟激化をにらみ、インドネシアの取り込みを進めたい考えがある。
ブリンケン氏は14日の演説で、「南シナ海における中国の攻撃的な行動が東南アジアの貿易態勢を脅かしている」と述べ、「ルールに基づく国際秩序」の重要性を訴えた。インドネシアは中国による現状変更の試みを座視すべきではないとのメッセージが込められている。
インドネシアはインド洋と太平洋の間という要衝にあり、2億7千万超の人口を抱える地域の大国だ。米国ではこのところ、外交におけるインドネシアの位置付けについて、「地政学的な重要性が十分に理解されていなかった」(政府高官)との〝反省〟の声が上がる。7月にオースティン国防長官が、8月にハリス副大統領が東南アジアを歴訪したが、インドネシアは訪問先から外れていた。
インドネシアは米中間の等距離外交を志向しているが、近年は中国からのインフラ投資が急増。中国支援で高速鉄道建設も進んでいる。新型コロナウイルス対策でも国内で使用されるワクチンの約80%を中国からの供給に頼っている。
一方、中国の覇権的な海洋進出に直面し、対応に苦慮している。南シナ海南端に位置するインドネシア・ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)では中国船の航行が常態化。ジョコ政権は11月に軍トップに親米派を据え、安全保障面で米国との連携強化を図ろうとしている。
今回のブリンケン氏のインドネシア訪問には同国を重視するとのバイデン政権の意思を明確にする意味合いがある。ジョコ政権は強権化が指摘されるなど「民主主義の後退」も懸念されるが、米国はインド太平洋におけるパートナーとして関与を強める構えだ。
また、ブリンケン氏は今回の東南アジア歴訪ではマレーシアとタイも訪問先に選んだ。いずれもオースティン、ハリス両氏が訪問しなかった国だ。米国としてはASEAN加盟各国にきめ細かく高官を派遣し、アジア重視の姿勢をアピールしたい考えがある。