関西の鍋

ほかの魚はもうクエん 脂が絶品 和歌山のクエ鍋

かつて「幻の魚」とも称されたクエ。体長1・5㍍に達するものもある=和歌山県日高町
かつて「幻の魚」とも称されたクエ。体長1・5㍍に達するものもある=和歌山県日高町

巨大でグロテスクなクエの外見からは想像もつかない、淡泊で上品な味を楽しめるクエ鍋。もともとは「幻の魚」と呼ばれるほど貴重だったが、和歌山県日高町の民宿が昭和40年代からクエ鍋を提供し始め、広まった。地元では「クエ食ったら、ほかの魚はクエん」と呼ばれるほどの美味。高価な点がネックだが、関西有数の観光地として知られる同県白浜町では近畿大が養殖に成功し、価格を抑えた「近大クエ」が普及している。

経営者が釣る

「クエ鍋の元祖」と誇る日高町。高さ5メートル近いクエのモニュメントもあり、天然のクエ鍋を堪能できるまちとしてPRに力を入れている。

クエ鍋は町内7カ所の民宿・旅館で楽しめる。このうち昭和40年代から続く民宿「波満(はま)の家(や)」を訪れた。2代目経営者の濱一己(かずみ)さん(71)は漁師でもあり、近海でクエを一本釣りして顧客に提供。「クエはやっぱり、鍋が一番うまい」と胸を張る。

天然クエの身やアラ、白菜、豆腐などの鍋の具材が運ばれ、昆布でとっただしがはられた鍋が用意された。濱さんに具を入れてもらう。まずアラから入れてうまみを出し、その後に野菜や豆腐を加え、最後に身を入れる。ふたをしてわきたったらできあがり。

身を特製のポン酢につけて口に入れると、プリプリとした食感で、淡泊でありながらなんとも濃厚な味が広がった。アラを食べてみると、ゼラチン質が多く、よりうまみを強く感じる。

クエ鍋を調理する濱一己さん=和歌山県日高町の「波満の家」
クエ鍋を調理する濱一己さん=和歌山県日高町の「波満の家」

具を食べ終えると、次は雑炊。満腹に近かったが、「雑炊は別腹」と濱さん。スープが残った鍋はいったん厨房(ちゅうぼう)に返され、のりとネギがちらされた雑炊となって戻ってきた。うまみが詰まったクエのエキスがしみわたり、体が温まった。

クエは年中とれるが、おいしいのは冬だ。濱さんは「冬に備え餌を食べて栄養をためているので、脂がのってうまい。桜が咲く頃になったら脂が抜けてくる」と教えてくれた。

鍋グランプリ最高賞

クエは関東以南の海に生息し、大きい個体は1・5メートルにもなるが、なかなかとれず、そのおいしさは一部の人しか知らなかった。だが、昭和40年代に日高町の民宿でクエ鍋が提供されて以降、関西各地で認知されるようになった。濱さんは50年代当時を振り返り、「クエの味を覚え、食べに来るお客さんが毎年増えていった」と話す。

さらにここ数年は、国内最大級の鍋料理コンテストをうたう「ニッポン全国鍋グランプリ」で、日高町の天然クエ鍋が最高賞を獲得したことが追い風になり、知名度が全国レベルになってきた。

埼玉県和光市で開かれるグランプリには平成30年、同町の民宿などが参加。最高賞「金の鍋賞」を受賞した。町旅館民宿組合が運営するホームページ「クエの町日高」では会場での人気ぶりを紹介しており、初日は予定していた千食が売り切れ、2日目用の200食を追加。2日目は100人を超える列が途切れないほどだったとしている。

出場を取り仕切った町商工会の荊木宣雄(いばらきのぶお)事務局長は「本来日本一の鍋で、『金の鍋賞』はとれると思っていた」と自信をみせる。受賞以降、関東から訪れる客が増えたという。

近大が養殖

天然クエの味は絶品だが、漁獲量が限られ、値段も高い。この点を養殖で解決したのが近畿大だ。天然では1キロ1万円程度するがその半分で済み、安定的な供給も可能になるという。

天然のクエ鍋を売りにする日高町から南東に約30キロの白浜町。ここに立地する近畿大水産研究所が昭和63年にクエの人工孵化(ふか)に成功し、養殖が可能になった。「近大クエ」として商標登録しており、仲買を通して白浜温泉のホテルや旅館に納入されている。

南紀白浜観光協会の藤田正夫会長は「天然クエに負けないクエ鍋を味わえる」と太鼓判を押す。

養殖が軌道に乗るまでは苦労もあった。

「白浜町でも冬は寒く、水温は20度以下になる。クエは餌をあまり食べなくなり、成長が遅れてしまう」。近畿大が出資する養殖事業会社、アーマリン近大(白浜町)の中井彰治・成魚事業部長は、かつて直面した課題をそう説明する。

この問題を解決するために近畿大は平成20年、ある程度大きくなったクエを冬でも水温が20度を下回らない奄美大島(鹿児島県)で飼育する方法を編み出した。

その結果、出荷できる3キロ程度の大きさになるまでの期間が、成長の早い個体で5年から3年に短縮。アーマリン近大が年間15~20トンのクエを生産し、そのほとんどが白浜温泉に出荷されている。

中井部長は「施設の規模上、これ以上の生産は難しい。『近大クエ』は白浜に来て味わってほしい」と呼びかけている。(張英壽)