柴門ふみの人生相談

辞退した転職 もっとうまくやれたのか

イラスト・千葉真
イラスト・千葉真

相談

30代、フリーランス業の男性。以前、転職活動でエージェントから紹介され、内定した会社がありました。

ところが、エージェント経由で示された年収が、会社と合意した額より100万円ほど低く、エージェントが会社に確認すると、「能力が少し足りなかったため」との回答でした。

しかし翌日、会社から「エージェントの手数料が高くてそう言った。面接で話した通りに給料を払う」と言われました。このことで会社に不信感を抱いたため、入社を辞退しました。

仕事も条件も良かったので、時々、「あのときエージェントに正直に話して、もっとうまくできたのではないか」との思いもあります。あのときどうすべきだったか、アドバイスを頂けないでしょうか。今後に生かしたいと思います。

回答

相談者の方の文面から、過去に相手に抱いた不信感から条件の良い転職を断ったことを、今も悔やんでいるように感じました。それはつまり、現在ご自分の仕事に満足されていないからではないでしょうか。現状に満足なら「あの時あの仕事を辞退して良かった」と思っているはずですから。

過去は変えられません。ですから、あのときどうすべきだったかという質問には私は答えられません。ただ、未来は変えられるので、あの転職を断ったから今のこの仕事に就けて良かった、と思える未来にすればいいのです。自分の現状に満足している人は、過去の失敗ですら現在に至る布石だったと、ポジティブに捉(とら)えている人が多いです。

社会に出ると、学生時代には想像もしていなかったズルや不正がまかり通っている現実に直面することがあります。経験を積んだ大人の中には「清濁併せ吞めてこそ、一人前」と主張する人もいます。しかし、その清濁の併せ吞みの加減は難しく、濁り水を大量に飲むと犯罪者となってしまうこともあります。なので、清濁の加減を見極められることが、大人の条件なのではないか。そんなふうに私は考えます。

「あのときエージェントに正直に話して、もっとうまくできたのではないか」と書かれているので、相談者の方もこのことに薄々気づいておられるのではないでしょうか。それだけでも、この体験は無駄ではなかったと思います。私見を述べると、会社の言い分は正々堂々としていなくて胡散臭いので、そんな怪しい会社には転職しなくて良かったと思います。なので、現状と未来を充実させることに集中してください。「若い頃、突っぱねて良い条件の会社を断ったこともあったよ、わっはっは」と笑い飛ばすことができるはずです。

回答者

柴門ふみ 漫画家。昭和32年生まれ。代表作は講談社漫画賞の「P.S.元気です、俊平」(講談社)のほか、「東京ラブストーリー」「恋する母たち」(いずれも小学館)。「ビッグコミックオリジナル」(同)で「薔薇村へようこそ」を連載中。故郷の徳島市観光大使も務める。

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