書店バックヤードから

「純文学」のくくりはもっと自由でいい

今回のテーマは「純文学」です。推理小説などエンターテインメント色の強い作品に比べ、「芥川賞」に代表される純文学は文体や内容が難しいイメージがありますが、だからこそ一度は手に取り、できれば語ってみたい。書店員の皆さんも選書に苦労したようですが、正統派の文芸書から純文学の定義本までバラエティーに富む本がそろいました。(司会は文化部・渡部圭介、田中佐和)

渡部 持田さんは所用で欠席です。文芸書担当が不在で、どうなるか不安です…。

此川 今回ほど持田さんがいた方がいい回はないですね。最終的に「純文学って難しいな」で終わるつもりです。

中川 一緒!一緒!

スタンダードブックストア・中川和彦さん選

・レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳『体の贈り物』(新潮文庫)

・グレイス・ペイリー著、村上春樹訳『最後の瞬間のすごく大きな変化』(文春文庫)

・アーネスト・ヘミングウェイ著、西崎憲訳『ヘミングウェイ短篇集』(ちくま文庫)

中川 そもそも純文学って日本だけの言葉なのだろうか? というのも僕、海外の本で『体の贈り物』。いわゆる純文学って、かめばかむほど味が出る、滋味深いものなんでしょうね。ちょっと読んだだけではスッと入ってこない。だから短編です。他の2冊も含め、最初のとっかかりとして短い作品がいいかなと。

レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳「体の贈り物」(新潮文庫)
レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳「体の贈り物」(新潮文庫)

田中 どんなお話ですか。

中川 自宅や施設で療養中のエイズ患者と、ケアをする人との話で「汗の贈り物」「涙の贈り物」など11編ある。ケアする方が一方的に何かを贈っているわけではなく、互いに物ではない何かを贈り合っているかもしれない。それは読んだ人の捉え方で、物語は淡々と進みます。日常の生活を研ぎ澄まされた言葉で表現しているというか。

渡部 淡々と進むというのは純文学の特長のような気もしますね。

紀伊国屋書店アリオ鳳店店長・此川洋平さん選

・小谷野敦著『純文学とは何か』(中公新書ラクレ)

・石原千秋著『小説入門のための高校入試国語』(NHKブックス)

・久世番子著『よちよち文藝部 世界文學篇』(文芸春秋)

此川 僕のメインは『純文学とは何か』。純文学って相対的にこういうものだな、というのを豊富な事例で紹介した本です。

小谷野敦著 「純文学とは何か」(中公新書ラクレ)
小谷野敦著 「純文学とは何か」(中公新書ラクレ)

中川 純文学という言葉は誰が作ったとかも出てくるの?

此川 中川さんからさっき純文学という言葉は日本だけ?という話がありましたが、そっくりその話もあり、いろんな知識を語れるようになる本です。でも結局「純文学とは何か」は分からない。純文学とは何かが分からないことがよく分かる…。

田中 「もう2冊」の『小説入門のための高校入試国語』は純文学とどんな関係が?

此川 私たちが純文学に一番触れるのは国語の授業です。国語では「作者の気持ちを答えなさい」という問題がありますが、それで国語嫌いになる人は結構いる。あれは学校的な道徳的価値観を含んだ物語のパターンというのがあって、それを読み解けば問題は解けるんだよ、と説明しているのがこの本です。

中川 だから僕、国語が嫌いやったんや。

此川 でも実は他の読み方もできるし、どういうふうに読んでもいいじゃないか、と著者の石原千秋さんは言ってくれていて面白い。

田中 読み手は純文学というくくりをもう少し自由に捉えてもいいのでは、という気にもさせられる選書ですね。

渡部 この2人の選書を持田さんがどう思うか気になりますが、書店員さんはみな、純文学が好きなイメージもある。

中川 どちらかというとまれな方では。純文学って、クラシック音楽と似ている。純文学といわれると手に取りにくくなる人もいて、それは作品にとって不幸やな。では最後に持田さんの選書を入れて、きゅっと締めてください。

持田さんはメールで選書と推薦理由をいただきました。

MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店・持田碧さん選

・夏目漱石著『こころ』(新潮文庫)

・カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)

・村上春樹著『羊をめぐる冒険』(講談社文庫)

『こころ』は中学から大学まで授業で何度も課題として読み返した作品です。20代前半までは好きではなかった。思っていることを相手に伝えられずに悶々(もんもん)とする登場人物に、歯がゆさしか感じませんでした。

夏目漱石著「こころ」(新潮文庫)
夏目漱石著「こころ」(新潮文庫)

転機は社会人になり、カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』を読んでいたとき。三角関係、この濃密な人間関係の中で本当の思いを感じ取っているのに言葉にできずにいる感じ、これは『こころ』だ!と思いました。

海外文学の中にいや応なしに立ち込める日本人の心象風景というか、原点に『こころ』の存在をはっきり感じます。読み返すたび年齢によってまるで感じるものが違うし、他の本とのつながりを自分の中で楽しめるのも純文学のすごいところではないでしょうか。

中川さん、レベッカ・ブラウンは私も大好きです!

大阪にある本屋さんの書店員たちが集まり、毎月テーマに沿ってそれぞれが本を選び、語り合います。