広島からポスティングシステムを利用して米大リーグ挑戦を表明(11月16日に正式発表)した鈴木誠也外野手(27)とメジャー複数球団との交渉内容の輪郭が浮かび上がってきた。代理人を務めるジョエル・ウルフ氏(米大手エージェント会社「ワッサーマン・メディア・グループ」野球部門代表)が獲得希望球団に対して提示している条件には大きく分けて2本の柱があると見られる。
キーワード①外野手のレギュラー候補として、最低でも3番目。出来れば1~2番手の評価であること。
キーワード②いきなり長期契約は望まず、最長でも3年契約。サイドレターとして、2年終了後には鈴木自身にフリーエージェント(FA)の権限を与えられること。
すでに鈴木と獲得希望球団との交渉はスタートしているが、ウルフ氏の要求の輪郭を複数のメジャー球団幹部は認識していると見られる。条件を受け入れることが鈴木獲得へのポイントになる可能性がある。
なぜキーワード①と②が重要なのか。あくまでも想像だが、鈴木は今季、広島で132試合に出場し、打率3割1分7厘、38本塁打の88打点を記録。本塁打は6年連続で20本塁打以上、同じく打率3割超えは6年連続、打点も6年連続で70打点以上という安定した成績を残した。しかし、大リーグという未知の世界で戦うわけで、慣れない環境や相手投手のレベルに戸惑う可能性は大いにある。
仮に獲得球団の鈴木に対する評価が外野手として3番手、4番手以降ならばシーズン開幕から打撃不振となれば、すぐに出場機会を失う。日本のプロ野球にやってくる新外国人選手が開幕から不振となれば、すぐにスタメンから外されるケースはよく見受けられる。鈴木の場合も逆のケースで想像すれば分かりやすい。なので、多少の打撃不振でも我慢してスタメン起用を続けてくれる球団を選択したいわけだ。ウルフ氏も元マイナーリーガーだった経験から、出場機会の保証を重要視しているだろう。
1試合4打席を与えられて、シーズンでは600打席程度は保証される球団でこそ、鈴木のサクセスストーリーの扉が開く…とウルフ氏は見ているはずだ。外野手としての評価が1~2番手であることは最重要視するのではないか。
さらにキーワード②なのだが、ウルフ氏が求める出場機会の保証はビッグクラブでは厳しい条件だ。例えば戦力層が厚く、熱烈なファンの批判も厳しいヤンキースやレッドソックスなどでは、条件を十分に担保されないことが予想される。なのでウルフ氏がターゲットに定めるのはミドルクラスのクラブ(球団)となるはずだ。新天地で2シーズン頑張って米大リーグに適応し、成績を残した上で2年後にビッグクラブとの大型契約に向かう…という筋書きが見えてくる。2年でFA権を取得することは次のステップに向けたプラチナチケットになる。
鈴木に関して獲得可能な選手としてメジャー全30球団に通知されたのが11月22日だった。交渉期間は米東部時間の11月22日から12月22日までだったが、その後の12月2日にMLB(ロブ・マンフレッドコミッショナー)は選手会との労使協定が失効し、26年ぶりの活動停止(ロックアウト)となった。しかし、鈴木のポスティングにはあらかじめ、ロックアウトを予想した『ロックアウト期間は交渉期間に含まれない』という条項が入っているため、大きな問題にはならない。労使紛争の終了後、残りの約20日間の交渉期間が保証されているわけだ。
以上の観点から移籍先としての有力球団はジャイアンツ、カージナルス、ブレーブス、ブリュワーズ、フィリーズ、カブスなどが浮かんでくる。さあ、鈴木誠也の着地点はどこだろう。
(特別記者)