令和4年度の診療報酬改定に向けた政府の検討作業が大詰めである。新型コロナウイルス禍で初の改定だ。感染症に強い医療への転換につなげることが重要である。
コロナ禍で露呈した医療提供体制の脆弱(ぜいじゃく)性への不安や不満は大きい。診療報酬の増減は、患者が窓口で支払う治療費負担にも直結する。政府はその点を銘記して改定してほしい。
診療報酬は治療や薬剤などの公定価格で、原則2年に1回改定される。薬の価格を取引実態に合わせて引き下げ、そこで捻出した財源で医師の技術料などの「本体部分」を引き上げるのが通例だ。
岸田文雄首相は、焦点の本体部分の増加を極力抑える構えだという。医療費の膨張に対処するためには、本体部分の引き下げも含めて検討する必要があろう。
日本医師会の中川俊男会長は医療現場の疲弊を理由に「(本体部分を)躊躇(ちゅうちょ)なくプラス改定とすべきだ」と主張するが、コロナ禍を持ち出して引き上げを当然視する姿勢には違和感を覚える。
2年度の一般病院の1施設当たりの利益率は6・9%の赤字となったが、コロナ関連の補助金を含めると0・4%の黒字だ。しかも3年度は経営状況も改善傾向にある。医師会は補助金頼みでは立ち行かないというが、コロナ禍に伴う緊急時の収支悪化を診療報酬に転嫁するのは筋が違う。
大切なのは医療体制の強化を後押しできるかだ。それには診療報酬を手厚くすべき医療と、そうではない医療を見極め、診療報酬にメリハリをつける必要がある。
コロナ禍では病床確保が不十分だった。病床を確保したのに、実際には使われない「幽霊病床」の存在も指摘された。病院の役割分担を明確化し、医療人材などを重点配置する再編を促す。重症者の病院と、回復期の患者の病院との連携を強める。診療報酬の改定でこうした流れを加速すべきだ。
かかりつけ医療の見直しも急ぎたい。第5波で自宅療養を余儀なくされた患者に対応したのは、日ごろは高齢者医療を提供する在宅医らだった。こうしたサービスの有無が地域医療の質を分けた。地域ごとの整備が不可欠である。
看護師らの賃金引き上げにも対応しなくてはならない。これを安定的に引き上げるためにも、個々の医療の報酬を精査し、適正な水準へと見直す必要があろう。