【ワシントン=大内清】米国主催で9日に開幕した「民主主義サミット」では権威主義への対抗のため、世界的に「後退」が指摘される民主主義の立て直しも課題だ。バイデン米政権は汚職対策や人権問題を前面に外交を進める構えだが、サミットの参加基準が曖昧な結果、不参加国を中国やロシアに接近させる懸念もある。中米ニカラグアの台湾断交はその現れともいえ、サミットに冷や水を浴びせた。
「権威主義者たちが世界で影響力を増し、抑圧的な政策や慣行を正当化している」。バイデン大統領はサミット冒頭の演説でこう危機感を示し、裏付けとして米人権団体「フリーダムハウス」が3月に発表した報告書のデータに言及した。
それによると世界では2006年以降、15年連続で民主主義が「悪化」した国の数が「改善」した国の数を上回った。20年にはその差が最大となり、「悪化」73カ国に対し「改善」は28カ国にとどまった。中国と対峙(たいじ)する台湾をも含む民主主義サミットの枠組みには、この潮流を押しとどめる狙いがある。
バイデン政権はサミットに先立ち、金融市場の監視強化や諸外国に腐敗撲滅を働きかけることなどを柱とする「反汚職戦略」を発表。サミット初日の9日は「汚職との闘い」をテーマとした討論も行われた。根底には汚職の蔓延(まんえん)が民主主義の基盤となる「法の支配」や「透明性」をむしばむとの問題意識がある。
一方、約110のサミット参加国・地域の選考基準には曖昧さがつきまとう。前述の報告書で「自由度」が最低レベルと判断された国が招かれた半面、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコや、米国と同盟関係にあるエジプトやサウジアラビアなどは不参加。いずれも中国の巨大経済圏構想「一帯一路」やロシアが影響力を強める中東で重要な地位を占める地域大国だ。欧州連合(EU)に加盟するハンガリーも参加していない。
これら非参加国が強権体質を強めていることや、人権を軽視した絶対王政体制であることは確かだが、他の参加国には同程度かそれ以上に非民主的とみなされる国々も含まれた。在ワシントン外交関係者は「非民主的だからと切り捨てるのでなく、民主化を促して中露に対抗することもできるはずだ」と語る。
9日には非参加国のニカラグアが台湾と断交し、中国と国交を結んだと発表した。ニカラグアではオルテガ政権が独裁色を強めており、約1カ月前の11月7日、バイデン氏は声明で同国大統領選を「非民主的なパントマイム選挙だ」と痛烈に批判している。そこにはバイデン政権が外交の2本柱とする「中国との競争」と「民主主義の促進」が必ずしも合致はしない現実がある。