岸田文雄政権が発足して初の税制改正大綱は、政局を多分に意識した踏み込み不足感が目立つ内容となった。国民受けが良い賃上げ税制の拡充を前面に押し出した一方、政権課題である格差是正に欠かせない金融所得課税の強化は市場関係者の反発を受け封印した。来夏の参院選での勝利に向けて、八方美人に終始した結果、中途半端になったのは否めない。
「企業の生産性を上げなければ、付加価値を上げなければ、この賃上げというものも息切れしてしまう」
自民党税制調査会の宮沢洋一会長は令和4年度改正の大綱案を自民・公明両党で了承した8日夜、こう漏らし、5年度改正では企業の成長に資する法人税改革が必要だと訴えた。与党合意の日にもかかわらず、成果を語らぬ姿に大綱の中身への複雑な思いがにじんだ。
安倍晋三政権が平成25年に賃上げ税制を導入した当時に税調の実務を取り仕切った宮沢氏は「導入して以降、拡充や見直しが繰り返されてきたが、所得拡大にはつながっていない」と主張。税制のみで給与水準を上げるのは難しいとして、優遇措置の拡充には慎重だった。結果的に首相の強い指示で控除(減税)率の大幅引き上げをのんだものの不満が残る形となった。
格差是正を重視した「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は、賃上げを中心とした「分配」への傾倒が強く、成長重視だった安倍、菅義偉両政権とは一線を画す。4年度改正では、ベンチャーへの企業の出資を促す減税措置は大きな変更がなく、第5世代(5G)移動通信システムなどデジタル化投資を促す減税措置を縮小するなど、ここ数年の主役だった成長戦略絡みの税制は影を潜めた。
ただ、分配のための抜本改革に切り込んだともいえない。宮沢氏は株式譲渡益などにかかる金融所得課税が海外と比べても低いとの思いから、課税強化に積極的だ。しかし、自民党総裁選で格差是正の一環として見直し検討を明言したはずの首相は、10月の就任直後に株価が急落した〝岸田ショック〟に驚き、早々に見直しの先送りを表明。いとこの宮沢氏と首相との間にその関係をうかがわせる連携は見られなかった。
気候変動問題への国際的な関心が高まる中でも、産業界の反対を意識し、二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて課税する「炭素税」にも踏み込まないなど、参院選を念頭に、公明党や業界団体との利害調整が難しい案件は棚上げされた。
だが、金融所得課税の強化や、環境性能で遅れたクルマの優遇措置縮小を検討する2年に1度の自動車税制の見直しが控える5年度改正では国民に痛みも強いる議論が避けられない。今度こそ首相の改革姿勢の真価が問われる。(西村利也)