熱い血潮があるうちに 北朝鮮による拉致被害者の母、横田早紀江さんが正論大賞特別賞「受賞の言葉」

横田早紀江さん
横田早紀江さん

自由と民主主義のために闘う「正論路線」を発展させた学者、文化人らに贈られる「正論大賞」(フジサンケイグループ主催)の特別賞に、北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさん(57)の両親、横田滋さん(故人)、早紀江さん(85)夫妻が決まり、母の早紀江さんが「受賞の言葉」を語った。また、第30回正論大賞受賞者、西岡力氏から「感謝の言葉」が贈られた。

横田滋さん
横田滋さん

熱い血潮があるうちに

横田早紀江さん


このたび身に余る正論大賞特別賞受賞という、思いがけないことに戸惑いつつ、主人の霊に喜びを伝えております。通常は慶事として感謝のコメントがあふれる光景なのかもしれません。ですが私どもにとりましては、そうした晴れがましさとは異なる、さまざまな事情があることをご賢察くだされば、と願っています。

私どもは言論活動を続けてきたわけではありません。北朝鮮にさらわれた娘、めぐみを取り戻すべく親としてやれることをしている。それ以上でも以下でもございません。多くの方々のお力のおかげで、私どもの訴えを広くお伝えできました。心温まる支援に支えられたことも有り難い限りです。

ですが、めぐみが拉致されて44年が経(た)ちました。北朝鮮が拉致を認めてから、まもなく20年の月日が流れようとしています。被害者家族との面会をした総理大臣は岸田文雄氏で12人目ですが、なお救出には至っておりません。あまりに長すぎます。主人は念願だった娘との再会が叶(かな)わぬまま昨年、他界しました。どんなにめぐみと会いたかったことだろうか。どれほど無念だったろうか。北朝鮮という国への許せない思いをいっそう募らせています。

主人は一途(いちず)に娘を愛し、再会に向け強い信念を胸に秘め、持てる力の全てを尽くしてきました。実名を公表して救出に邁進(まいしん)すると決断したのも主人でした。

あれほど元気で頑張っていた主人が今は黙って静かに眠っています。そうした現実のなかで、いろいろなことを考えます。なぜ、これほどの歳月が流れながら、何も事態が動かないのか。めぐみは元気で過ごしているのか。拉致がなければ今頃、どんな女性になっていただろうか…。

主人が果たせなかった思いは残された家族全員が引き継いでいます。人間というのはやはり生きていなければならない、と思いを強くします。とにかく熱い血潮があるうちに、体が動くうちに、できる限りの大切なことをやっておかなければならない。そう考えています。めぐみをはじめ全ての拉致被害者が帰る日まで、心からの感謝を込めて解決のために頑張っていきたいと思います。引き続きのご支援をお願いいたします。有り難うございました。


〈よこた・しげる、さきえ〉横田滋さんは昭和7年、徳島市生まれ。長女、めぐみさんが北朝鮮に拉致されていたことが判明し、平成9年から19年まで「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」代表を務めた。滋さんの妻、早紀江さんは昭和11年、京都府生まれ。滋さんと国内外を歩き、めぐみさんや、同じように拉致されている同胞救出を目指し、署名活動や講演を重ねてきた。

夫妻は37年に結婚、39年にめぐみさんを授かった。日本銀行勤務の滋さんの転勤で新潟にいた52年、当時13歳のめぐみさんが下校中、失踪。約20年後の平成9年、拉致の疑いが判明した。14年の日朝首脳会談で北朝鮮は拉致を認めて「死亡」と伝えてきたが、後に引き渡された遺骨はDNA型鑑定の結果、めぐみさんのものではなかった。孫のキム・ウンギョンさんの存在も分かった。滋さんは再会を果たせぬまま令和2年6月に他界。早紀江さんは今も救出を訴え続けている。


魂揺さぶったご夫妻の言葉 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 西岡力会長


横田滋さん、早紀江さん夫妻の正論大賞特別賞受賞にあたり、「感謝します」「申し訳ない」という言葉を贈りたい。「おめでとう」は全被害者の帰国後に贈る言葉だ。

「感謝します」は、滋さんの勇気ある決断と早紀江さんの魂を揺さぶる言葉のおかげで、わが国や世界の人々が問題の放置に気づき、解決へ立ち上がったからだ。

平成9年、北朝鮮による拉致を伝えられたとき、ご夫妻は大変悩まれた。専門家の多くが「証拠隠滅へ危害が加えられるかもしれない。匿名がよい」と助言した。しかし、滋さんは「このままでは政府や国会、マスコミは放置し続ける」と決断。実名公表は、救出活動のうねりの原点となった。

14年、小泉純一郎首相(当時)の訪朝で、北朝鮮は拉致を認めたが「5人生存、8人死亡」とウソをついた。政府からめぐみさんの「死亡」を通告され、早紀江さんは記者会見で声を振り絞った。

「いつ死んだか分からないことを絶対に信じられません」「支援の会の方々と力を合わせて闘ってきたことが、政治の中の大変な問題であることを暴露しました。これは日本にとっても、北朝鮮にとっても大事なことです」

多くの国民の魂が揺さぶられ、拉致問題は国民的課題になった。

めぐみさん拉致から44年。いまだ救出できない。そのことには「申し訳ない」という言葉しかない。