中国、WTO加盟20年 貿易総額9倍に 米では中国抜き「通商版NATO」提唱も

世界貿易機関(WTO)の本部=スイス・ジュネーブ(ロイター)
世界貿易機関(WTO)の本部=スイス・ジュネーブ(ロイター)

【北京=三塚聖平、ワシントン=塩原永久】中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してから11日で20年を迎える。中国の貿易総額は約9倍に拡大し、輸出を成長エンジンにして国内総生産(GDP)で世界2位となった。国有企業の優遇など不公正な貿易慣行への批判が米国で高まっているが、習近平政権は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の加入申請を行うなど影響力をさらに拡大させようとしている。

中国国営新華社通信は9日に配信した評論記事で「加盟後、WTOを舞台に勢いのある中国の一章が打ち立てられた」と強調した。実際、2020年の輸出入を合わせた貿易総額は、WTOに加盟した01年の9・1倍と急拡大を果たした。

輸出拡大が起爆剤となり、WTO加盟時には日本の3分の1に過ぎなかった名目GDPは右肩上がりで成長。10年には日本を追い抜き、世界1位の米国に迫りつつある。世界への影響力も増しており、新華社によると中国は現在、世界120超の国と地域の主要貿易相手になっている。

一方で、政治問題を抱える国に貿易面で圧力をかけることが目立つようになっている。新型コロナウイルスの発生源をめぐって独立調査を求めたオーストラリアには石炭の輸入制限などを実施。豪州にとって最大の貿易相手国であることを武器に事実上の報復措置を打ち出している。

米国内では、政界から産業界まで中国のWTO加盟を認めた過去の政権の判断に根強い批判が出ている。

「政治と経済の巨人だった当時の米国は、中国の勃興を妨げるのに理想的な立場にあった」

米シカゴ大のミアシャイマー教授は米フォーリン・アフェアーズ誌でそう指摘し、1980年代以降の米歴代政権に矛先を向けた。

米国が対中貿易拡大や、WTOなどの国際貿易体制に中国を組み込む動きを進めたことで、中国の国力強化に手を貸したと強調。逆に重要技術の対中輸出制限などに取り組んでいれば、現在のように中国が「地域覇権を追及するような地位に至ることはなかったはずだ」と悔やんだ。

中国市場を重視する米経済界には、依然、対中関係悪化を懸念する向きがあるのは確かだ。それでも、中国ハイテク企業が存在感を高める中、米産業界からも公然と、中国に貿易ルール順守を迫る声が強まる。

米ハイテク産業界と関係が深い米シンクタンクの情報技術イノベーション財団は今夏まとめた報告書で、「国家主導型経済を維持する中国はWTOルールを守っていない」と断じた。

旧ソ連を仮想敵国とする米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)にならい、中国に対抗する有志国による〝通商同盟〟と位置づける「民主主義国連盟条約機構」(DATO)を立ち上げるよう提案した。

一方、中国は9月にTPP加入を正式申請したほか、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が来年1月に発効する。米国がTPPを離脱する中、貿易面で国際的な影響力を増すべく積極的に多国間枠組みに参加する姿勢を示す。米国の対中包囲網を切り崩す戦略の一環とみられる。

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