コロナ その時、

(38)2021年7月23日~ メダルラッシュの中、迫る医療崩壊

7月23日、ついに東京五輪が始まった。1年延期という未曽有の危機を乗り越え、晴れの舞台で世界のアスリートが躍動する。だが、緊急事態宣言が発令中の東京都では、新規感染者数が過去最多を更新。祭典をあざ笑うかのように猛威をふるい、政府は宣言の新たな発令・延長決定を余儀なくされた。

東京都心の上空を23日、五輪の開幕を告げる航空自衛隊の「ブルーインパルス」が飛んだ。曇りがちでやや風もあり、スモークによる整った「五輪」の時間はわずかだったが、緊急事態宣言で外出自粛が呼びかけられる中、多くの人が空を見上げマスク姿で歓声を上げた。

この日、すっかり暗くなった国立競技場(東京都新宿区)で、無観客の巨大なスタンドを背景に開会式が始まった。入場行進では「ドラゴンクエスト」など日本のゲーム音楽が流され、大会名誉総裁を務められる天皇陛下が開会を宣言。全国をめぐった聖火はフィールドで長嶋茂雄氏らを経由し、テニス女子の大坂なおみの手で聖火台に点火された。

欠けたのは観客だけではない。大会の最高位スポンサーのトヨタ自動車は、社長らが開会式に出席しないことを明らかにしていた。これまでの五輪をめぐる経緯を踏まえ「いろんなことが理解されない五輪になりつつある」(執行役員)と指摘。感染状況はますます悪化し、開幕直前に大会関係者の不祥事も相次いで発覚した。健全で力強い五輪のイメージは、大スポンサーが距離を置くほどに深く傷ついていた。

コロナで棄権の選手も

だが、翌24日、開会式の中継番組(NHK総合)の平均視聴率は驚異的な高さだったことが判明する。平均視聴率は関東地区で56.4%(ビデオリサーチ調べ、速報値)を記録。過去10年の全番組で初の50%超だった。

開会前の暗雲を払拭するかのように、列島は日本人選手の金メダルラッシュに沸いた。24日の柔道男子60キロ級の高藤直寿(たかとう・なおひさ)を皮切りに、男子66キロ級の阿部一二三(ひふみ)と、女子52キロ級の詩(うた)は男女のきょうだいで初めての同時金メダル。競泳女子の大橋悠依(ゆい)は2冠を達成し、卓球混合ダブルスでは水谷隼(じゅん)・伊藤美誠(みま)組が日本勢初の金メダルを獲得した。

新競技での躍進も目立ち、26日にスケートボードの女子ストリートで13歳の西矢椛(もみじ)が優勝。日本勢史上最年少の金メダリストとなり、テレビ解説者が使った「ゴン攻め」などの言葉は今年の新語・流行語大賞でもトップ10入りした。

しかし、コロナの影響で涙をのんだ選手もいた。開幕直前、チリのテコンドー女子選手は日本到着時の検査で陽性となり棄権に。オランダのスケートボード女子選手が、隔離先のホテルで窓を開けることもできず「とても残酷」とインスタグラムに動画を投稿すると、日本側への抗議で1日15分間だけ窓を開けられるようになったという。

初めて1日1万人を突破

この間もコロナの脅威は増大していく。東京都内の新規感染者数は、開会式まで4日連続で1000人を超える。28日には3234人と2日連続で過去最多を更新。29日に国内感染者数が初めて1日1万人を突破し、都のモニタリング会議で「2週間後には医療提供体制が危機にひんする」との見解が示された。

政府は30日、8月22日が期限の東京などへの宣言を8月末まで延長することを決定。7月29日、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は「今の最大の危機は、社会一般の中で危機感が共有されていないことだ」と悲愴(ひそう)感を漂わせた。

海外で再び規制強化

海外に目を転じると、感染力の強いインド由来の変異株「デルタ株」の感染拡大で、緩和してきた各種規制を再度、強化する動きが相次いだ。

アイスランド政府は商業施設への入場制限などを25日から再び導入すると発表。米疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長は27日、5月に原則不要としたマスク着用について、感染者の多い地域を対象に接種済みの人も屋内の公共空間では着用すべきだとする指針を明らかにした。

バイデン米政権は29日、すべての連邦政府職員に接種を求め、接種しない場合は定期検査などを義務化すると発表。フランスでは26日、接種を9月15日から医療従事者に義務付ける法律が成立した。新法は接種、あるいはウイルス検査での陰性を証明する「健康パス」の提示を飲食店や交通機関、デパートなどに広げることも定めた。だが、これらの義務化は一部の国民から反発を受けることになる。

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