イノシシの生息域北上中 国主導で駆除本腰も…

全国的に深刻な農作物被害を抑えるため、国がイノシシの駆除に本腰を入れる一方で、生息域の拡大阻止に苦慮している。令和5年度までにピーク時の4割に減らす目標を掲げ、年間50万~60万頭ペースで捕獲しているが、生息域はむしろ広がり、〝北限〟を押し上げている。過疎化や高齢化に加え、温暖化などの複合的な要因が絡んでおり、専門家は「捕獲頭数を増やすだけでは、生息域の拡大を食い止められない」と対策の練り直しを求めている。

「一度侵入許せば…」

「自然の生き物を人間の力でコントロールするのは難しい。それでも今、手を打たなければ取り返しのつかないことになる」。イノシシによる農業被害が年々拡大する山形県の担当者は危機感をあらわにする。

同県では明治末期以降100年以上にわたりイノシシの生息が確認されていなかったが、平成14年に天童市で1頭が捕獲され、その後は各地で出没が相次いでいる。県内の30年度末の推定個体数は約7800頭。10年間で20倍近くに膨れ上がっているとみられる。

令和元年度には約2000頭を捕獲したものの、同年度のイノシシによる農作物被害は約7400万円に上った。イノシシは繁殖力が高く、メスは年間平均4~5頭の子供を産むとされる。ある自治体関係者は「イノシシの増え方はねずみ算式で、一度侵入を許せば地域からの完全な駆除は不可能に近い」と漏らす。

生息北限、青森へ拡大

平成22年度には全国で推定約132万頭が生息していると推定されたイノシシ。国は令和5年度までに約50万頭以下に抑える目標を示し、狩猟者の育成や捕獲報奨金の上積みなどの施策を展開したところ、捕獲数は年間50万~60万頭に増加し、令和元年度末には推定約80万頭まで減ったとみられている。

ただ、生息域の拡大には歯止めがかかっていない。国内では長らく宮城県がイノシシの北限とされてきたが、近年は北上の兆候が確認されるようになり、青森県で同年度に3頭、2年度には13頭が捕獲された。約40年前に比べ、生息域がほぼ2倍になったとの環境省の分析もある。

過疎化や高齢化が背景にあり、同省鳥獣保護管理室の担当者は「人の活動が低下した山間地域にイノシシが入り込んでいる」と説明。耕作放棄地はイノシシにとって格好の繁殖場所で、人の手を離れた里山に進出しつつあるという。

温暖化で越冬増える?

温暖化に伴う積雪の減少の影響も指摘されている。冬でも地面を掘ってエサを探すのが容易になったため、越冬できる個体が増えたことが考えられる。

捕獲数をもとにした国の推定個体数を疑問視する声もあり、イノシシの生態に詳しい福島大の望月翔太准教授(野生動物管理学)は「実際の生息数はもっと多く、捕獲数が足りずに広がりを抑え切れていない可能性がある」と分析する。

生息域の拡大阻止には分布の最前線で集中的に捕獲する一方、農作物被害を抑えるためには農地周辺での捕獲を強化するといった目的に応じた切り替えが求められる。望月氏は「捕獲量を増やすのも重要だが、地域の実情に合わせて捕獲の手法を使い分けることで、対策の効果がより高まるのではないか」と強調した。

(竹之内秀介)

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