【ワシントン=渡辺浩生】米政府が6日、北京五輪の外交的ボイコットを表明した。中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区での強制収容を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」としてきた以上、当然の帰結だった。だが、中国の習近平政権が報復をちらつかせる中、メッセージとして十分か。米議会などでは全面的ボイコットを求める声が高まりをみせる。人権外交で譲らぬ姿勢を見せてきたバイデン大統領はさらなる判断を迫られる可能性がある。
バイデン政権はウイグル自治区での弾圧や残虐行為をめぐり、トランプ前政権の「ジェノサイド」認定を踏襲して停止を迫ってきた。だが、11月の米中首脳会談でも習近平国家主席は「内政干渉」と取り合わず、強い抗議措置を求める声は米議会の超党派議員や人権団体から日に日に高まっていた。
これを受けてバイデン大統領は数週間前に外交的ボイコットの判断を固めたと米紙は伝えている。なぜこのタイミングの表明なのか。
ひとつには、中国の女子テニス選手が同国元副首相に性的関係を強要されたと告白し動静が不明となった問題が、「米国選手の健康と安全にかかわる」(共和党のギャラガー下院議員)人権侵害として全米に怒りと不安を広げたからだ。
米国がボイコットに踏み切れば中国政府は「対抗措置をとる」と牽制(けんせい)。権威主義への対抗を追求する米国主宰の「民主主義サミット」を9日に控え、ギリギリのタイミングでもあった。
だが、米国内では「外交的ボイコットでは不十分」(ポンペオ前国務長官)と追加措置を求める声が広がりをみせている。
前駐日大使のハガティ上院議員(共和党)は5日、「バイデン氏は中国共産党の悪意ある行為からすべての選手を守るため世界を主導すべきだ」と述べ、国際オリンピック委員会(IOC)に北京以外の開催を迫るべきだと訴えた。
米紙ワシントン・ポストによれば、ウイグル関連の内部文書を分析した欧米の人権団体は「ジェノサイドは習氏とその一味が働きかけた計画的な政策選択」と結論付けたという。選手団派遣は残虐行為の正当化に利用されるとの認識が根強くある。
民主党のティム・ライアン下院議員も声明で「バイデン氏は中国にもっと責任を負わせるべきだ」と他地域での開催を求めた。穏健主義の外交を唱える外交問題評議会のハース会長は「米企業がどの程度追随するかが見ものだ」とツイート。スポンサーなど企業の人権意識が試される機会とした。現時点でホワイトハウスは選手団派遣は維持する方針だが、外交的ボイコットにとどまるべきではないとの声は今や超党派である。
米政府は北京五輪への対応について「同盟国やパートナーと活発に議論をしてきた」(ブリンケン国務長官)とし、連携を模索してきた。一方でウクライナ国境沿いに部隊を展開するプーチン露政権には制裁を含む対応が迫られている。「民主主義の守護者」として中露と同時に向き合うバイデン外交は正念場を迎えた。