90年前の「中国国恥地図」、米軍が利用 「失地回復」掲げる膨張主義を警戒

7月、中国の「国恥地図」を基に「議論」する米空軍の教官(米グッドフェロー空軍基地のサイトから)
7月、中国の「国恥地図」を基に「議論」する米空軍の教官(米グッドフェロー空軍基地のサイトから)

台湾海峡や東・南シナ海をめぐって米中間で軍事的緊張が高まる中、中国で1930年前後に発行された「国恥(こくち)地図」を、米軍が教育用の資料として用いていることが分かった。当時の中国が、台湾のみならず沖縄や東南アジアまで「諸外国に奪われた自国領」と主張し、その歴史を「国の恥」と断じた地図だ。版図は「伝統的な勢力範囲」として、現在も中国で幅広く意識されている。

「国恥地図」の利用が分かったのは、グッドフェロー空軍基地(テキサス州)に所属する偵察・情報担当士官の教育訓練機関。詳細は不明だが今年7月、教官が同地図を基に「議論」している写真がサイト上で公開された。教官は、台湾や中国大陸の沿岸部に線を引いて何かを説明している。

東京国際大の村井友秀特命教授(国際紛争論)はこの写真について、米空軍が「中国人民解放軍が〝失地回復〟を旗印に動きを加速させる懸念について検証した」とみる。背景には、中国で軍や人民に、過去の〝領土〟を取り戻すことこそが中国を正常な状態に戻す、との一方的な高揚感が広がれば「犠牲やコストをいとわず、軍事行動への本気度を高める」との警戒感があるという。

米在住で「中国『国恥地図』の謎を解く」(新潮新書)の著書があるノンフィクション作家の譚璐美(たん・ろみ)氏によると、国恥地図は少なくとも10種類あるという。譚氏が所蔵している33年版「中華国恥図」は「実際の中国の2倍はあろうかという荒唐無稽な代物」(譚氏)で、当時、小学校の教科書に収録されていた。

北はロシアのサハリンやシベリアから、モンゴル各地、西はカザフスタンやアフガニスタン、南はマレーシアやシンガポール、そして南シナ海、台湾から沖縄全域までを赤い線で囲って「旧国境」とした。

村井氏によると、習近平指導部には「国恥地図」を政治的に利用し、台湾や南・東シナ海での拡張主義的行動も「失地回復に過ぎない」と正当化を図る狙いも見え隠れするという。

安倍晋三元首相は今月1日、台湾の研究機関が主催したオンライン会議で「台湾への武力侵攻は地理的、空間的に必ず、日本の国土に重大な危険を引き起こす」と述べ、「日米同盟の有事でもある」と指摘した。村井氏は「日本も改めて『国恥地図』の戦略研究を急ぐべきだ」と話している。(河崎真澄)