変わるラジオ㊤

ラジオ局経営にIT企業や学校法人 異業種参入で活力

聴く人に寄り添いながら、細やかな情報を届けるメディア、ラジオの魅力が見直されている。新型コロナウイルス感染拡大で在宅時間が増え、スマートフォンやパソコンで放送が聴ける「radiko(ラジコ)」が普及したことなどが影響しているという。そんな中、IT企業など異業種からラジオ局運営に参入するケースも出てきた。近年、ネットメディアの台頭に押されてきたラジオ。そのネットメディアがラジオ復権の機運を押し上げる。

ネットとの融合

昭和33年に放送を開始した老舗ラジオ局、大阪放送(ラジオ大阪、OBC)が今年7月、ライブ配信アプリなどを運営する「DONUTS(ドーナツ)」(東京都渋谷区)と資本業務提携した。

「ラジオはうちが展開するビジネスと強いシナジー(相乗効果)がある」

平成19年の創業以来、ゲームやライブ配信、クラウド勤怠管理システムなどIT分野で新規ビジネスを次々立ち上げ、多角的に事業を進めるドーナツの共同創業者で代表取締役の西村啓成(ひろなり)氏はこう話す。主力事業の一つ、ライブ配信アプリ「ミクチャ」は、誰でもライブ配信や動画の投稿ができるサービスで、「まずはミクチャとラジオのコラボから。動画があると若者もラジオに引き込みやすくなる」と期待する。

ラジオ大阪の特別番組「OBCふれあいラジオ」に連動したミクチャのライブ配信の様子(DONUTS提供)
ラジオ大阪の特別番組「OBCふれあいラジオ」に連動したミクチャのライブ配信の様子(DONUTS提供)

ミクチャの利用者は10~20代の若者が多く、累計ユーザー数は1700万人に上る。ラジオ放送に合わせて収録や控室の様子などを配信して、ラジオの弱点である若い世代への浸透を狙いたい考えだ。11月23日にはラジオ大阪の特別番組「OBCふれあいラジオ」の出演者らが控室で話したり、ゲームをしたりする様子を配信した。

「ラジオは良質な番組を持っているのに、それをうまくマネタイズ(収益化)できていない」

ドーナツを売上高134億円企業にまで育て上げた西村氏はラジオ大阪との資本提携を機に、取締役にも名を連ねた。ラジオ局の経営をシビアに見る。

広告呼び戻す

コロナ禍の影響もあってラジオを聴く人が増えているという。全国のラジオ局の番組が楽しめるラジコの月間利用者数は新型コロナの影響を受け、昨年2月から3月にかけて一気に150万人増えた。その後は800万~900万人の間で推移している。

 DONUTS(ドーナツ)のオフィス。ラジオとの相乗効果を狙う=東京都渋谷区
DONUTS(ドーナツ)のオフィス。ラジオとの相乗効果を狙う=東京都渋谷区

一方で、西村氏の指摘の通り、ラジオ局の収益力は低下している。電通が発表した「2020 日本の広告費」によると、令和2年の国内のラジオ広告費は1066億円で15年前の約6割にまで落ち込んだ。対してネット広告媒体費は2兆2290億円に上る。

西村氏は日本にはユーザーの増加が収益につながらない「環境の問題がある」と指摘する。雑誌の定額制(サブスクリプション)サービスなどを例にとって「本来700円で売ることができるコンテンツを10円で売っているような状況だ」と憂う。ラジオも同様で、質の高い番組でも収益につなげられていない現状を変えていきたいという。

「ネットはかけたコストに対する効果が分かりやすいので広告が集まる。ラジオに広告を呼び戻すには成功事例を作るしかない」。まずは「コンテンツ、つまり番組の量と知名度」を上げて収益化を図っていく考えだ。

自主制作でテコ入れ

異業種からの経営参画が、制作番組や業績に変化を生んだ先行事例がある。

開局59年目を迎えた茨城放送(水戸市)。令和元年11月、企業研修などを行うグロービス経営大学院などを率いる実業家、堀義人氏が出身地である茨城を活性化しようと、朝日新聞社などから株式を取得して筆頭株主になった。

「コンテンツが一番重要だと考えた」

堀氏は改革の手始めに、自主制作の番組を増やす計画を進めた。資金力も人手も足りない地方局のタイムテーブルは、東京のキー局などから番組を購入して流す時間が多い。茨城放送でも2年1~3月期の自主制作番組数は26本と全体の6割程度だった。

「今やラジコでどこでも全国の放送が聴ける。独自性を出さないと差別化できない」。堀氏はニュースを深掘りする番組など新番組を多数立ち上げた。3年10~12月期には自主制作番組は46本にまで増加。「直近の調査では関東圏のAM放送の中で、キー局に次ぐ人気だった」という。

ネットの活用も進める。収録の様子の動画や、音声をテキスト化したデータを配信。これまでのラジオ放送にはない発想でリスナーの獲得を試みてきた。

急激な改革に現場の混乱もあった。自主制作番組の会議には編成だけでなく営業部門の社員も参加。社内全体の意見を取り入れることが目的だが、編成事業部の社員は「新しいアイデアと社内や業界内での慣例をどうすり合わせるかで苦労した」と振り返る。

また、風通しの良い組織を目指し、社長室や役員室をなくして番組の編成と営業が同じフロアで働く環境に変える中で、当初は戸惑う社員も少なくなかったようだ。別の社員も「年齢を問わず、変化に対して抵抗を感じる職員は一定数いた」と明かす。

ただ、改革は着実に成果をあげている。今期の売り上げは例年を上回ると見込む。堀氏は「ようやく戦うための態勢が整った」と、ラジオ局の変化の時を確信している。(桑島浩任)

他業種からの経営参画やラジオ局同士の協業、そして新しい音声メディアの登場などで変化の時を迎えたラジオの姿を追います。

会員限定記事会員サービス詳細