コロナ禍で増えるアルコール依存、在宅勤務・孤独感…「アリ地獄」に

2年近くにわたる新型コロナウイルス禍で、アルコール依存症患者の症状悪化や、新たに依存症と診断されるケースが増えている。専門医は依存症に陥る様子を「アリ地獄」に例え、「在宅勤務による仕事環境の変化や、外出自粛に伴う孤独感などで無自覚のまま転落する人も目立つ」と分析。回復するには早期発見と治療に加え、家族を含めた周囲の支えが必要だと訴える。

東京都内の企業で働く1級建築士の30代男性は3月、初めてアルコール依存症と診断された。コロナ禍で在宅勤務になり、勤務中の飲酒が止められなくなったことが原因だという。

始まりは昨年4月ごろだった。「仕事の電話もかかってこないので、何となくいいかなと…」。夕方に冷蔵庫から缶酎ハイを取り出し、午前0時ごろまでダラダラと飲む生活が続いた。徐々に飲み出す時間が早まり、昨年末には気づけば、アルコール度数の高い「ストロング系」の500ミリリットルの缶酎ハイを毎日3、4本飲むようになっていた。同居する妻にばれないように、飲み終えた空き缶を隠すこともあった。

数年前から依存症の兆候はあった。会社帰りに自宅に着くまで我慢できず、電車内や路上で歩きながら飲酒していた。健康診断で肝機能障害を指摘されると禁酒し、数値が改善していたので気にしていなかった。

勤務中の飲酒が周囲に発覚したのは今年3月。緊急で入った会社のオンラインミーティングに参加すると、パソコンの画面越しに上司から「お前、明らかに酔っぱらっているだろ」と指摘された。「勤務中に飲むなんて、頭では駄目だと分かっているのに止められなかった」と振り返る。

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依存症の専門医のもと、抗酒剤による薬物治療を開始。薬をやめるタイミングで再び酒を飲んでしまう「スリップ」も経験したが、妻と娘に支えられながら、出社して人に会うようにするなど飲まない環境作りを意識している。週1回通院しているものの断酒を継続できているという。

依存症患者らを診察する「さくらの木クリニック 秋葉原」(千代田区)の倉持穣院長は「コロナ禍で、潜在的依存症の人が顕在化したり、依存症患者の症状が重症化したりするケースが見受けられる」と話す。

同クリニックでは、コロナ禍が関係していると判断された初診患者の割合は昨年6月に11・1%、同7月に11・5%だったが、その後増加傾向にあり、今年3月は32・3%、同4月には32・1%だった。

倉持院長によると、在宅勤務で仕事を管理する人がいないことや、同僚や上司に気軽に相談できなくなったことでストレスが増えるなど、仕事環境の変化を訴える患者が多い。外出自粛の影響で自宅で長時間飲酒してしまうなど、生活習慣・飲酒習慣が変化したと話す患者もいる。

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厚生労働省などによると、アルコール依存症と診断された患者は全国に約5万人いるが、これは〝氷山の一角〟といわれる。飲酒習慣からすでに依存症の人は約107万人、潜在的アルコール依存症は約292万人に上り、さらに生活習慣病のリスクを高める飲酒をしている人は約1036万人と推計されるという。

倉持院長は飲酒習慣者の人口分布を独自に「アリ地獄モデル」として提唱。「依存症というアリ地獄にはまると生涯抜け出せない怖さがある。コロナ禍で人と会わないことで、患者が発見しづらくなっている。早く治療を始めることが大事で、周囲の協力も欠かせない」と訴える。

世界保健機関(WHO)はアルコール依存症を「精神疾患」に分類。患者同士で経験を語り合い、精神的な回復を目指す「断酒会」や「AA(匿名のアルコール依存者自助グループ)」などに参加するのも治療法の一つとされている。

アルコール薬物問題全国市民協会「ASK」のホームページ(https://www.ask.or.jp/article/6489)では、相談窓口一覧を掲載している。(浅上あゆみ)

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